トリュフォー監督がヒッチコック監督をオマージュしたとされるサスペンス。音楽バーナード・ハーマン。原作は「裏窓」などの米サスペンス作家コーネル・ウールリッチ。
南フランスの大きなマンション。パーティーに参加中のコリー(ジャン=クロード・ブリアリ)とブリスは入口に一人たたずむ女性(ジャンヌ・モロー)が気になり声をかける。女はブリスを誘ってテラスに出た。その直後、女はブリスを突き落とし姿を消した。その後、別の場所で中年の男が青酸カリを盛られ命を落とす。果たしてこの女は何者なのか?そしてその目的とは?。。。
序盤の殺人までの演出と、風に乗って天高く飛んでいく白いスカーフの映像は良かった。映画の組立ても巧く計算されていたと思う。しかし、段取りはとても良いのだがイマイチ盛り上がらないまま終わった感が強かった。
トリュフォー監督は本作を失敗作だったと後に語っている。特にカラーにしたことで「視覚的ミステリーがまったくなくなった」とのこと。個人的には当時40歳のジャンヌ・モローを花嫁役にしたのがミスキャストだったと思う。その不自然さが始終気になり鑑賞のノイズとなった。
女性主人公が一人一人と復讐を遂げていくサスペンス・プロットは、映画としては本作が先駆例としてよく挙げられるが、先日観たばかりのジェス・フランコ監督「The Diabolical Dr. Z」(1966)の方が先駆けている。
撮影のラウル・クタールは、ヌーヴェル・ヴァーグ全盛期のトリュフォー監督とゴダール監督の作品を担い続けた名手。しかしトリュフォ―とは本作で決裂し二度と組むことは無かった。
1968年の本作から滲み出るトリュフォーとジャンヌ・モローの衰え。ヌーヴェル・ヴァーグという時代の終焉を感じる一本だった。
※ラストの展開は原作とは大きく異なっている。
※シオドマク監督「幻の女」(1944)の原作はコーネル・ウールリッチがウィリアム・アイリッシュ名義で書いたもの。