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花束みたいな恋をしたのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.7
脚本家の坂元祐二さんは「遠距離とか、身分違いの恋とか、そういった障壁をとっぱらった、純粋に恋愛だけにフォーカスした作品をつくりたかった」とインタビューで言っていたらしい。

大きな障壁がなくても二人は別れる事になる(恋とはそういうもんだ)
原因は、時間の経過とそれに伴い直面することになる人生の局面。大学卒業、就活、多忙な仕事をこなし社会のルールに適応していく事…。
二人(主に麦くん)は社会の厳しさに直面し、変わらざるを得なかった。絹はずっとサブカルを二人で共有し楽しむ恋愛がしたかった。
絹と麦のどちらが正しい、どちらが不誠実だった、はっきりと言い切る事ができないバランスで描かれているのが秀逸だった(もちろん二人のどちらかに共感や自分の経験を重ねて、恋愛議論をするのもメチャクチャ楽しいし、話は尽きないと思う。)

本作はキラキラした恋愛の始まりや、切なすぎる別れを菅田将暉、有村架純という人気・実力ともに若手№1俳優が演じている。
なので10代20代がキュンキュンさせながら見ることもできるし、もっと大人の世代が少し引いた、違った角度から見ても楽しめると思う。

主人公二人と世代が違う自分は登場するカルチャー固有名詞一つ一つに共感するという楽しみ方はせず、少し引いた視点で二人と周辺の登場人物を見て楽しんだ。
その見方だからこそ出来る楽しみ方もある気がする。

モノローグによる説明が多用されるし、純映画表現として優れている作品だとは思わないが、今年を代表する一本だし、恋愛映画の重要作の系譜に並べられる傑作だと思う。
(公開初日と、一週間後にもう一回観た)

麦の絹、二人の出会いから別れまでの5年間を描く恋愛レイヤーと、そのレイヤーの下にうっすら日本社会の変容レイヤーが透けて見える。
社会の変容を大げさに言えばグローバル市場経済の影響としての「貧富の格差の拡大」とそこから来る「過度な(病的な)競争原理、意識高い系マインドの蔓延」。
「圧迫面接」、「就職機会の減少」、「イラスト作業単価が下げられやりがいの搾取」、「カラオケボックスに見えないようにしたカラオケに集う」、
「自己啓発本に書いているワードを話す自称IT系ベンチャー社長」、「『誰でも出来る仕事なんてしたく無かった』と言い残してトラックを捨てたドライバー」


『ラ・ラ・ランド』『ブルーバレンタイン』『500日のサマー』『ビフォア・サンライズ』『横道世之介』『劇場』『何者』『マリッジストーリー』

あのタイミングでジュリオ・セーザル「我々の道のりは美しかった。あと一歩だった。」効くなぁ。

-----作業中-----
あるカップルの出会いから別れまでの5年間を描く恋愛レイヤーと、そのレイヤーの下にうっすら日本社会の変容レイヤーが透けて見える。

社会の変容を大げさに言えばグローバル市場経済の影響としての「貧富の格差の拡大」とそこから来る「過度な(病的な)競争原理、意識高い系マインドの蔓延」。

《イヤホン使い秀逸》
・麦と絹が音楽音痴である事を描写するのは、二人でイヤホンのLR片方ずつ使う
・最も幸せだった時期にお互いへのプレゼントが、ワイヤレスイヤホンでモロ被り!でも逆にお互いが愛おしくて笑顔が収まらない!
・生活がすれ違い出した二人。絹がゼルダの伝説をやってて一緒に楽しみたいけど「仕事するなら音量下げるね!」。麦は「音量上げてやっていいよ?」と言った後にワイヤレスイヤホンで自分の世界に籠もり仕事に集中する。一つのの世界を共有していた二人はとうとう、イヤホンによって別々の世界に生きる事に、描写。


《Googleも使い秀逸》
Googleストリートビューの使い方一つ挙げても、
『学生時代の何者でもない麦にとってGoogleMapに載っちゃった事が凄い特別な事で。ヤバい!イェーーーイ!
という伏線があり
二人が別れた後に多摩川沿いをGoogleストリートビューで覗くとあー!麦と絹が!』というエモさ満開のエピソード。

あれをもう一つのレイヤーで見ると、
「Googleに代表されるグローバル企業によって、世界中を網羅し監視しているので我々はもはや逃れる事は出来ない。
Googleストリートビューの無機質なカメラに捉えられた事があのカップルの紡いだ恋を唯一記録している皮肉さ。」という坂元裕二のイジワルな視点と受け取れなくも無い。

見過っちゃいけないのはこの主役二人は
【ポップカルチャーのトップクリエイターでは勿論なく、
消費する側としても、所謂アーリーアダプターの先端を行くような若者でもなく、
普通の若者(それこそ「ショーシャンクの空にって知ってる??めちゃ良かったね」のアノ二人とか)より少しカルチャー摂取が多くて興味の幅が広い。】
そんなバランスとして描かれている気がする。
羅列されたカルチャーの固有名詞を考えるとそんな気がする。(当時の東京における天竺鼠の認知度は分からないが)
だから我々も自分を投影する事が出来る。


そんなスタンスの麦だから一般企業への就職を機に、ポップカルチャーへのアクセスが一旦、止まる。
これは、かなり多くの人が思い当たるのではないだろうか。

絹との共通の話題であり、出会いのきっかけにもなったポップカルチャーに対してのスタンスの違いから、絹とすれ違っていく。

麦が就職する事になる理由はとして描かれるのは、
・それまで食いつないできた挿絵イラストの単価が不当に下げられた事。
・広告代理店に勤務する絹の両親(の発言)
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