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花束みたいな恋をしたのmihoのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
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始まりは終わりの始まり。
恋が始まる予感、会えばいつだってウキウキが止まらないこと、これぞまさに恋っていう心境を味わいながら自分は地上から2センチくらい宙に浮いているのではないかと疑うくらい浮き足立ってしまうこと、でも安定してくると出会った当初のきらめく感情が失われつつあることに気づいてしまうこと、節々で相手からの好意を感じなくなること、それと同時に自分もそういう節があることに気づくこと、そのうち自分が好きだった相手の姿も相手を好きだった頃の自分もいないことに気づいてしまうこと、必死にその事実に気づいてないかの如く振る舞うこと、最後の最後に失いたくないと嘆くこと、お互いが涙してお別れすること。つめこまれてた。
村上春樹のなにかのエッセイに、「恋をするのに最適なのは20代前半である」という文言を見て、心底納得してしばらく読み進めずに考えたことがある。確かに、それより前はおままごとみたいで手探りな面が強く、それより後は現実を見据えて構えた恋になる(それを恋と言っていいのかはわからないけれど)。純粋に相手の"人間性"そのものを好きになれるのは、いい意味で中高生ほどふわふわしてたり可愛すぎていなくて、社会人ほど現実に直面していない、やっぱり大学生あたりの、歳で言えば20代序盤のモラトリアムの時期なのだろうなと思う。その当時の恋が生涯うまく行く場合もあるし、麦くんと絹ちゃんみたいに、学生と社会人との境界線と過渡期を経て、結局その相手とはこの先やっていくには難しいのではないかと気づくこともある。それが大半であることをわたしは知っている。多分人間は成長して変わっていくものなんだという事実を受け入れなければいけないんだと思う。それは良くも悪くもね。

私は所謂ここで描かれた花束みたいな恋をしていないと思う、どちらかというと。同棲もしたことがないし。でも私にも同じ年代に相手に焦がれ、全てが新しくてキラキラしていてずっと続くと思った花束みたいな恋はあって、或いは、敢えて揶揄すれば、それとはちょっと違った一輪の花みたいな恋や草木をかき分けていくような恋もあって。そういう可愛らしい微笑ましい記憶を思い出したり、相手が元気かなと思いに耽ったりしていてさ、なんだか土井さんと坂元さんに見透かされた気分だった。彼らは随分と年代が違うはずなのに、すごいよな。

奇しくもこの映画の麦くんと絹ちゃんは私と一年たりともズレがない全くもって同じ年の設定だった。わたしはあまりサブカルじゃないしポップカルチャーにもそんなに精通してなく、わからない点は多々あったけど、ああ確かにこの頃にああでこうで、っていう大枠は極めて現実のわたしと同じであらゆる思い出が蘇った。これ、大学での学生時代をまじまじと切り取った映画ではなくて恋愛にフォーカスしているのに、自分の学生時代のあらゆるシーンに紐づいていて、思い出に耽ってしまう映画だった。
大半のシーンが何故か心を締め付ける映画ってそんなにないと思うんだけど、これは序盤からなんだか愛おしくて泣きそうになった。それって主演2人とかは特に関係がなくて、例えばビール買って歩いてみたり、一緒に映画館や美術館行ったり、読んでる本を交換しあったり、しょーもないカラオケだったり、本当にありふれたシーンやデートが描かれているのが理由な気がする(その裏には他の人との飲み会や会話、バイト、さーくるなんてあったりしてさ)。
学生から社会人の過渡期を経て少し経った私には、中盤から終盤にかけてのすれ違いは、どちらの気持ちもわかってしまって。もう本当にどうしようもないんだよねこればっかりは。悲しかった。最終的には終盤のファミレスのシーンで絹ちゃんが手に爪を食い込ませながら麦くんに向き合うシーンでやられた。そう、それくらい自分も痛めつけないとちゃんと話できないんだよね。思い出の席で若い2人が彼らの出会った頃と同じような会話するシーンはあからさますぎてちょっと萎えたけど、あの時の主演2人の表情はグサグサきた。あの頃にはもう戻れなくなったことを悟る2人はきつい。
嫌いにになったわけではないし、お別れしてからも他と付き合うことがないのに、別れなきゃいけないこともあるって、明確に理由があること以上に辛いとも思うんだ。
そしてあの別れ方は極めて理想系と思う。あんだけ好きだったら、お別れがあんなに綺麗なことはない。だけど、理想系で良くて。きっと誰にでもあるこの時期の恋愛を、美しい思い出にしてさようならすればもっと幸せになれるよっていうメッセージなのだろうかと思った。

あーまとまらないけど、とりあえず色々な層の千差万別の恋愛をしてきた人たちに少しでも共感を抱かせそうな映画、すごいなと思った。
そしてわたしも過去の恋愛をプラスに、思い出しても憂いを感じることなく、今を楽しめるようにしたいな。
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