なす

花束みたいな恋をしたのなすのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.0
まさに、自分の世代を描いた映画。
京王線に乗った時、彼らとすれ違っていたかもと思わせる
世代の捉え方・日常描写がすごく良かった。

映画の作りの話は詳しくないから、自分がどう感じたかしか書けないけど、
まさに、世代であることもあってか心がざわざわした。
この映画は、大きく麦と絹の出会いから就職までの前半と、
就職して二人の関係性が変節し始める後半に分かれると思うのだけど、
前半は、こんな風になりたかったけど、なれなかったもの。
後半は、現実、みたいな感じで受け取った。

麦と絹みたいに、
好きな小説・演劇・音楽の世界にどっぷり浸るような学生に憧れながら、
結局そうはならなかった。なれなかった。
「やりたいこと」じゃなくて、「やった方がいいこと」に埋没していた。
受験して、地方から出てきた時点で、
僕は後半の麦に近い状態になってたのかもしれない。
牧場で好き勝手に草をほおばる他の馬を尻目に、
ニンジンをぶら下げられて
ひたすら走りこんでいる馬みたいなものだった
(広告代理店勤務だからレトリックを使ってしまう)
走れば何かがあると思いつつ、
走ることそのものに夢中になることもできず、
どちらも少しずつ斜めに茶化すことで、辛うじて自尊心を保っている。
今や、目の前のニンジンが自分の欲しいものでないと
気づきかけているけど、直視するのは怖いので見ないようにしている。

人生の中で何かが決まるたびに、
何か忘れ物をしたような気分になる。
取り返せるものもあるし、取り返せないものもある。
忘れてきたと思っていても、そもそも自分の持ち物でないものもある。
この映画を通じて、自分の中で何かが動いた気がするけど、
具体的に何が動いたのかは分からない。
あまりに、世代が近すぎるからかもしれない。

何年か経って見返した時、この映画と、この映画を最初に見た自分とを
並べて初めて何を感じていたのか分かるのかもしれない。
なす

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