青山

火女’82の青山のレビュー・感想・評価

火女’82(1982年製作の映画)
3.6

ソウルに住む作曲家の夫と養鶏所を営む妻、2人の子供の一家。田舎から来た若い娘を家政婦として雇うが、ある夜酔っ払った夫が彼を誘惑する生徒の女と間違えて家政婦を強姦したことから一家は崩壊へと向かっていき......。


『下女』(60)をセルフリメイクした『火女』(71)のさらにセルフリメイクだそうです。
自作を10年置きに2度もセルフリメイクするなんてのはなかなか聞いたことがなかったですが、まぁリメイクと言っても内容は『下女』とはかなり違って、設定やセリフに一部共通した部分のある別作品くらいのノリで見れたので新鮮に楽しめました(『火女』は観れてないのでわからんですけど)。

というのも、『下女』は男の時点で魔性の女に破滅させられる様を描いたお話だったのが、本作では身勝手なクズ男に女たちが苦しめられるお話に変わっていて、共通する部分も多いだけにこの正反対とも言える構図の違いが際立っています。
なんせ本作はもう完全に夫が悪いしクソすぎる。妻が養鶏所をやってるのを傍目に自分は若い女の子を侍らせてうはうは言いながらエロい歌なんか作っちゃってさ!もう、「浮気しない夫に魅力はない!」とか言いながらノリノリで火遊びしちゃうんです笑。全編通して彼はなんつーか色気があってカッコいいだけの空っぽな人間として描かれています。
それに対して、妻と家政婦という2人の女たちが主役。本作では家政婦は純然たる被害者ではあるので、妻も彼女に同情している面も大きく、1人の男を奪い合う関係だけどどこか通じ合っている感もあって良かったです。
この家政婦のキャラも『下女』の下女とは対照的で、ほんとに垢抜けないただの田舎娘として描かれているんですね。なので男としては『下女』のあの聖と俗を併せ持つような魔性の女の方がどうしても好きではあるんだけど......。しかし彼女が無知で下品で善良な田舎娘だからこそ、どんどんメンタルがヘラっていく過程の凄味があるし、弱いからこその捨て鉢な強さが印象的で、よりキャラクターとして掘り下げられているのは良かったです(脚がエロい......)。
また、本作は『下女』に比べてドロドロ感も増していつつ、みんなやりすぎな感じがもはやコメディで、嫌な話だなぁと思いながらもけっこう笑いながら観てましたね。

映像や演出の面では、冒頭はなんかカラーになったせいで変に安っぽい昼ドラみたいな雰囲気だなぁと思ってたら家での話になってからはいきなりくすんだ赤や青の照明が多用される『サスペリア』みたいな色合いになってびびった。時計の部屋での情事とか、最後の階段のとことかも全体になんかクドくて笑っちゃうけど奇抜な映像がたくさん観られて満足。あとみんなナチュラルに生卵そのまま食うのヤバい。

家の中での3人+子供達の心理劇をシンプルに描いた『下女』に比べて登場人物も増えたり状況も混み合って色も付いて複雑さを増した本作。個人的には『下女』のシンプルさの方に強く惹かれますが、深みと重みがあるのはこっちで、20年経った分の進歩を感じさせる作品ではあると思います。
青山

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