しん

カモン カモンのしんのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
3.8
子どもと大人のバディものと書くと、平凡な作品に思えてしまうかもしれません。しかし本作の主題は双方の分かりあえなさであり、しかもその分かりあえなさを優しく包み込むような構成は圧巻でした。

ホアキン・フェニックスの慈愛と困惑に満ちた目は、子どもという「怪物」を前にした大人の苦悩をよく表しています。しかし冷静に考えると「怪物」なのは、さまざまな感覚を「普通」の名の下に抑圧し、時限爆弾を抱えたようにいつしか爆発する日に怯える大人の方なのかもしれません。モノクロ映像によって、観客から少し離れた印象を醸し出しながら、徐々にこの大人の「アンバランスさ」へと誘っていく構成は素晴らしかったです。

また子どもは大人が思っている以上によく見ているという定説を音声や語りを通じて表現する手法も見事でした。ヘッドホンから聞こえてくるような音声を使うことで没入感を増し、さらに語りの隅々に子どもが大人を見る視線を入れることで、大人の「何も見てなさ」を際立たせています。

作品全体を通じて、本当に優しい素晴らしい映画でした。帰り道は、少し心が軽くなった気がします。
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