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カモン カモンのhyuのネタバレレビュー・内容・結末

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

人と人、そして家族の関わりに焦点を当て、理解と不理解が同時に共存する複雑な人間関係を温かく描いている。

ジェシーとジョニー、無関係ではないけどよそよそしさが微妙に残る甥っ子と叔父という関係軸。そんなふたりの様子を見守るようなモノクロの世界が映す映像は情緒的で美しく、さらに日常風景をより特別でアーティスティックなものに昇華してくれている。

きちんと子供と向き合うのが初めてな大人のぎこちなさと、感情の起伏がありながらも真っ直ぐに想いをぶつけてくる子供。

「対話する」ということ、それは「寄り添う」ということ。

はじめジェシーの問いに、ジョニーはうまく答えられない。相手の言葉に耳を傾けるということはコミュニケーションの第一歩なのだけれど、それによって自分自身が心の奥底に閉じ込めていた想いにも気づかされる。

感情的に怒鳴ってしまうのもすべて過程。だから彼は逡巡を経て、レコーダーに自分の正直な想いを吹き込み、自分の内面を見つめ直していく。性急に答えを出すのではなく、ゆっくりと、自分のペースで。

「大丈夫じゃなくてもいいんだ。蹴ったり、暴れたり、叫んだりしても良い」

心から怒り、哀しみ、喜ぶこと。感情を共有すること。blah blah blah(ブラブラブラ)と意味のない会話をするようになるのは非常に示唆的であり、これがふたりの着地点だろう。

そしてこの映画の中で、象徴的なものが「レコーダー」と「インタビュー」だ。

映画後半、ジェシーは「このことをずっと覚えてる?」と無垢に問う。ジョニーは「僕が全てを思い出させてあげる」と答える。

まだ9歳のジェシーには、これから先、さまざまな人々との出会いと別れが待っている。その中でこの記憶は薄れてしまうだろう。経験上、ジョニーはそれをよく分かっている。

忘れゆく日常の断片の煌めき。時を越えて、その輝きを保存する。それは確かに無価値かもしれないけれど、きっとほんの少し人生を豊かにしてくれる。だからジョニーは記録する。記録するということは不可逆な人生に対するささやかな反抗であり、だからこそ「クールだ」とジョニーは感じるのだろう。

そしてこの映画の中では、次世代を担う子供たちへのインタビューが数多くインサートされている。彼ら・彼女らは、未来を決して悲観的なディストピアとは捉えてはいない。

最後のジェシーの言葉が未来への不確かさとそれに対する前向きな希望を象徴し、作品全体のテーマを締めくくっている。

「未来を考えたことある?起きると思うことは絶対起きない。考えもしないことが起きる。だから先に進むしかない。カモン、カモン、カモン」

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【DATE】
1: 2022/04/27
2: 2023/11/24
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