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ミッドナイトスワンのtaittiのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

色々な問題提起があって文章にするのは難しい。

母とは何か。
一果のためにより多くを犠牲にして一般的に「愛情」と呼ばれるものを与えたのはきっとなぎささんの方。
でもその支えの末に出れた発表会の、1番ピンチの時に人の目も気にせず助けてくれたのは本当のお母さん。
悪く見れば引き戻すためのアピールだったかもしれないけれど、結果的に救っていたのも事実。

その後なぎささんは暴走気味に一果へ「愛情」を注いでいたけど、途中から自己満足的な要素もあったのかもしれないし、踏み出せなかった性転換手術のきっかけにしたとも言えてしまう。

これらが「愛情」かどうかは全て子供が決めることだけれど、それなら大人が「愛情」として注げる範囲はどこまでなのか。今回はジェンダーの話や虐待の話が相まって取り返しのつかないところまで進んでしまったけれど、親という立場なら考えるべき問題だと思う。


虐待について。
一果の元の環境は確かに悪かったけれど、最初のなぎささんも決していい環境とは言えなかったと思う。そこでも少しずつ心を開いていったところを見るとやっぱり幸せは相対的なんだなと思ってしまう。

それと一果で印象的だったのは「失う」ことを極度に嫌がること。それはリンなどの存在然り、それぞれの夢も然り。これはただ一果が優しいというだけではなく、今まで与えられなかった、自分に何かを犠牲にしてくれなかったという自己肯定感の低さが根底にある気もする。

一方でお金に余裕があっても親の理想に固められたリンは、その理想に応えようと自分を押し殺し、最終的に一果への行動、怪我によるバレエの断念により親からの注目を失い自殺を試みてしまう。結果はわからないけれど。これも形は違えど一種の虐待と言えると思う。

これらの問題があっても彼女らにとって母はたったひとり。それなのに「更生した」と言って反省した一果の母はほとんど変わってなく、リンは本音を言い出すことなく命を絶つ選択をした。子は親を選べないというけれど、本当に虐待は親が変わらない限り解決が難しいと思う。


LGBTについて。
これは病気とかではなくただの定義の話。それなのに就職は難しく、世間からは馬鹿にされ、子供は嫌がらせを受け、親からの理解も得られるとは限らない。金と地位を得るのが男女に比べて明らかに難しくなっている。
そんな苦労が母になろうとしてるなぎささんに次々降りかかってきて、こんなにも生きづらい世の中になってしまっているんだと痛感させられた。分かっていたつもりだったけどより鮮明に。

何より痛かったのは本人が世間の風潮分かっていること。理解はあるし気をつけている善意は汲み取れるけれど結果本人は傷ついている、そんな無意識の攻撃に対して笑顔でやり過ごしているのは見てて本当に辛かった。
逆にバレエの先生に「お母さん」と呼ばれた時は本当に嬉しそうで、母としてというのもあると思うけれど、女性として認められることがこんなにも嬉しく、普段叶っていないことなんだと思わされた。


その他。
なぎささんの「自分らしくありたい」「母親として守りたい」や、一果の「大事な人を失いたくない」といったまっすぐな願いがジェンダー問題や虐待によって邪魔されていて、より問題を考えさせられた。

なぎささんは仲間の言う「堕ちて」から結局そのまま行ってしまったけれど、一果は環境下で逞しく育っていて、これは大人と子供の差なのか、ジェンダーの問題なのか、個人の問題なのか。

海のシーンで一果は死ねなかったのか、死ぬのをやめたのか。なぎささんを思って踊っていたのを見るとせめて後者であってほしい。



全体として思ったのは、果たして死んでしまったのか、発表会はどうなったかなど決定的なシーンが少なかったところ。
個人的には「その人が重要なのではなく、社会でこういった現実があるんだ」という問題提起ではないかと感じた。


めちゃくちゃ長く書いてしまったけれど、そのくらいの情報量はあった。絶対に観た方がいい大傑作だと思う。
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