あさ

ミッドナイトスワンのあさのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.0
惜しい映画だった。というのは申し訳ない程、本筋やテーマにはかなり惹かれるものがあったし、主演の役者さんたちは良かった。ただ各所にウーンという部分があったのは否めない。

「自分の映画を社会的にはしない。これは娯楽。娯楽映画で問題の第一歩を感じれればいい。社会問題は誰も見ない。映画祭やSNSでインテリ気取りが唸り議論するだけ。」
まず監督のこのツイートを鑑賞前に読んでしまって、ン?となってしまう。トランス女性、若者の自殺、シングルマザー、田舎に蔓延する一昔前の価値観…挙げたら沢山の「社会問題」が詰まっているのに、「社会問題は誰も見ない」?
監督の言いたいこともわかるよ。娯楽であれば多くの人の目に触れる。結果としてその人たちが何かを受け止めればいい。ただ私はこの発言になかなかにがっかりしたよ。娯楽を消費する観客をあまりにも馬鹿にしているしね。このテーマで作品を撮ってよくもまあと…。

主演のナギサを演じる草彅さんは良かったし、イチカちゃんの何考えてるのかわからない所も、少しずつ変化していく様子はすごく見応えがあった。なんとも味のあるいい女優さんだった。
そしてリンちゃん。どうしてこう雑に描けたものか。電話を切った後、コンクール1曲目を踊り出すシーンは最高だった。正直結構良かったんだよ。ただ、どうして富豪がこんな屋上でウエディングをする?100均で揃えたんか?青空を背にしたかったにせよ、あの結末に繋げたかったにせよ、この場面にもっと相応しい設定があったでしょうに。それにあの唐突な飛び降りだけは受け入れられない。観客をアッと言わせることには成功しただろうけど、なんて雑な…。せめてその後何かあると思ったら一切触れないし。もう少しこう…。

性転換手術後の「サボり」について。
ものすごく辛かった。今思い出しても股間が痛い。性転換手術はした後もホルモン投与が必要だし、寿命が縮まるとも聞いたことがあったけど、こんなリスクもあるの?
「サボり」って何?真偽がわからなくて気になって調べたけどあまり出てこなかった。流石にきになるからまた調べるけども。ンン〜。

封筒の中身からしてロンドンの学校に行くのかと思ったらアメ〜リカだった驚き。

「LGBTQ、勉強してるんですよ」という面接官のおっちゃん。あちゃ〜と頭抱えたけど、現実こんなのザラにあるんだよなあと。何なら無意識にこういう責め方をする可能性だってある社会。自分でいるだけで就職が難しいって。改めてまだまだ生きづらいって感じてしまった。きついわ。
*あとLGBTQの人の映画って初めて見た〜とか、不器用な人たちを描いた映画〜とか仰ってるレビューを見かけて少し胸痛でした。不器用な人たちとは?

あとは女性の描き方が結構ファンタジーちゅうかなんちゅうか。そこだけが全然リアルに感じられなくて。どうしても透けて見える「オッサンが撮ったJK像」みたいのが抜けてなかった。(中学生だけど)

自由に羽ばたく白鳥。落ちていかざるを得ない白鳥。つらい。つらいよ。
日本で、それもシネコンでやるような規模でこういうテーマの映画が撮られるのは珍しいと思う。ただちょ〜っと、いささか不安。願わくばこの映画で感動した人たちはここから沢山の映画を見てほしい(なんて言える立場でもないんですけど。)私はロランスでもいいし。
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