静かだが強い熱を帯びた作品。
暗く寒い冬の夜。覚束無い足取りと震える腕で酒を飲む。灯りのついた小さな部屋に虚な目を浮かべる老人。
「死にたい...」と漏らす老人と言葉を詰まらせるヘルパーさんの横顔。しばしの静寂。
ヘルパーさんに森の音を聞かせてほしいと乞う。その音によって思い起こされるのは先立った妻と森を散歩した時の情景。
今の自分と同じように生きる為に人の手を必要としていた妻。
水面に映る草木の緑と川の流れと共に降っていくような煌めく陽光が二人に雪を思わせた。
「今度一緒に雪を見に行こうか」
そう呟いた時妻の目には確かに光が宿り、何かを必死に手のひらに綴っていた。
なんと書いていたのか定かではないがひょっとすると前向きな言葉とは違ったんじゃないだろうか。
今この時のことを思い出したのは美しい思い出などでは無く、自分と同じく死にたいと願った妻を自らに重ねたのではないだろうか。
自分の意思を伝えることさえままならななくなったとしても魂は生きている。
尊厳を保ったまま死にたいと願うのはもしかすると至極当然のことなのかもしれないな。
これが現実。
目を曇らせてはいけないな。