アラシサン弐

由宇子の天秤のアラシサン弐のレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.7
この映画は、「正義」というものが今この世で最もややこしくて純粋な悪意を持った存在であることを再認識させてくるし、それが正論だけで放たれたとき、いかに人を凶暴にさせたり間違いを犯させたりするかを教えてくれる。

由宇子は「正義」の特性を理解し、行使する立場であるジャーナリストという立場だからこそ、「正義」の影響力を敵に回したときの恐怖を知っていて、そこに父や教え子みたいな感情的になる要素が加わるから天秤の振り幅が強くなるんだろうな。

ドキュメンタリーで作り上げようとしている「正しさ」と、父や教え子を守るために否定した「正しさ」は、言葉は同じだけど全然違う。
だからややこしい。

そして超然としている由宇子の行動そのものが矛盾していることを突きつけてくる。

で、その矛盾に対して、由宇子が天秤を揺らし続けて選んだ答えで起きてしまう事態が、「正論が最善とは限らない」の説得力を凄まじいものにしてると思った。

「プロミシング・ヤングウーマン」のキャシーじゃないが、由宇子がその身を持って正しさの曖昧さを告発してくれたような気がする。

瀧内公美さんの顔もすごい。
無表情なのに奥から煮えたぎってくるような温度を感じる。
ワンカットには息すら出来ない。
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