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ミッドナイト・ファミリーのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・ファミリー(2019年製作の映画)
4.2
【社会保障なき修羅の国】
第92回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ショートリストに選出されたメキシコのドキュメンタリーがNHKの『世界のドキュメンタリー』で放送されていたので観てみました。これがドキュメント『家族を想うとき』な作品で戦慄を感じると共に、多くの人に観て欲しい作品でした。

社会保障、Wikipediaに頼りざっくり説明してもらうと「個人的リスクである、病気・けが・出産・障害・死亡・老化・失業などの生活上の問題について貧困を予防し、貧困者を救い、生活を安定させるために国家または社会が所得移転によって所得を保障し、医療や介護などの社会的サービス(Social benefits)を給付する制度を指す。」という意味だ。

国民に最低限度の暮らしを与えるため、助け合いの精神で導入されている制度だったりする。しかし、行き過ぎた資本主義と合理化の流れにより、それは世界規模で失われている。少子高齢化にもがく日本も、社会保障削減の為に、徐々に徐々に地に堕ちつつある。さて、本作はメキシコの民間救急車から、社会保障などあってないようなメキシコ社会の地獄を捉えている。家族ぐるみで運営する民間救急車は、夜な夜な出動要請があれば飛び出さないといけない。日銭を稼ぐ為に出動するのですが給料未払いは日常茶飯事、日銭を得ても僅かであり家族を養うには足りない。日によっては、ガソリン代すら払えず、手で救急車を押して運ばねばならない事態が発生する。食い盛りな息子は、量を重視する為、食事はポテチだったりする。人命を救う立場にある人間が、僅かな水と、ツナ缶、クラッカーなどを車内やイートインスペースで食って腹を満たすことしかできないのだ。『家族を想うとき』よりさらに下をいく、働けども働けども豊かになれなず仕事に縛られる現代の奴隷がそこにありました。

そして、これは医療業界だけではないことがわかる。救急車に運ばれてくる人や警察の姿にも表れている。彼氏にDVされ、血だらけで運ばれてきた女性は、いきなりこう語る。「いくらお金かかるん?私お金ないのよ、仕事もないのよ。抱きしめて。」と。自分の命が関わっているのに、出費を心配し始めるのです。メキシコ社会がいかに、病気や怪我をしたら一巻の終わりかを物語っている。

また、警察官もノルマがあるのだろう。緊急事態にもかかわらず、駐車違反キップを切ろうと踏み切るのだ。緊急事態による焦りで違反することを狙っているかのように、警察が目を光らせているのです。

NHKの『世界のドキュメンタリー』は毎回60分程度に短縮してしまうのが難点ですが、それでもこの作品を放送してくれたことは大きな希望になるだろう。弱者を切り捨てることで訪れる修羅の国をみせつけられた作品でした。
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