浅野公喜

フルチ・フォー・フェイクの浅野公喜のレビュー・感想・評価

フルチ・フォー・フェイク(2019年製作の映画)
3.5
イタリアのホラーを中心に数々の作品を作り上げた、故・ルチオ・フルチ監督を取り上げたドキュメンタリー。彼の娘達(片方は今作撮影直後亡くなったとか)や親しかったスタッフや友人らが出演。

所々挟まれるフルチ爺を演じる役者の妙なドラマは蛇足な感じですが、貴重なエピソードだけでなく、数々のプライベートな映像やフルチ爺になる前の若フルチの写真等はファン必見。

ホラーのイメージが強いですが、50年代~60年代はコメディ映画も多く手掛けていたフルチ監督。しかし劇中では「(ホラーは出来が悪くても売れるが)彼のコメディー作品はどの国でも売れない」と言われており、字幕では拾ってなかったものの「ジャポネ」という単語が聴こえた事から日本も御多分に洩れずそれらは未紹介(未公開)のものが殆どで、彼の全貌を知るにはまだまだ難しい所が有りそうです。

ドキュメンタリーを通して思ったのは(やはり)フルチ監督は複雑な人間という事。だからこそ印象的な作品が作れるのかもしれませんが、奥様の自殺や子供の落馬事故等が彼に暗い影を落としたようで、繊細さや弱さを隠す為虚勢を張ったり、「デモンズ」シリーズの何作かや「アクエリアス」を監督し、その「デモンズ」で仮面の男も演じフルチ監督の「地獄の門」にも出演していたミケーレ・ソアヴィによれば、大物ぶってたらしい2世女優のアントネラ・インテルレンギが何者かに口に虫を突っ込まれるシーンの撮影では彼女の口に虫を突っ込むのは自分にやらせてくれとせがんでいたとか(笑)。

「ザ・リッパー」等における女性に対する残虐的表現についても取り上げられていますが、本人こそ「私は女性に囲まれていた」とは言ってるものの、女性を理解出来ない、監督なのに上手く交流交際出来ない、理解してくれない状況故に形成されたミソジニー的思考やフラストレーションがそういった表現や上の女優に対する態度に昇華あるいは繋がったのかな、とも大袈裟ですが少し想像してしまいます。

とにかく、一筋縄ではいかないフルチ監督に対する色々な考えやイメージが浮かぶ故にかなり中身が濃いドキュメンタリーです。
浅野公喜

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