穂苅太郎

バビロンの穂苅太郎のレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.2
デイミアン・チャゼル監督にしては期待外れとか妙に映画系ユーチューバー辺りで評判が悪かったり、さすがに3時間越えはきついなーと思ったりで。なかなか足が遠のいてしまっっていたんだが、やはりここは観ておかなければならないと遅ればせながら。

平日のレイトショーとはいえ300人ぐらい入る会場に3人の観客はさすがに寂しかった。一応映画を題材にしている作品なのに。でもそれゆえになんだか作品テーマとリンクして味わいが増したってのもある。

ハードルを下げたこともあってなのか、今年の中では1位2位を争うハマりっぷりに我ながら驚いた。確かに長いっちゃ長いが、これむちゃくちゃおもしろい。どうも映画マニアやシネフィルの視点で論じてしまって「ニューシネマパラダイス」とか、奇しくも真裏でやっている「フェイブルマンズ」とかと比較する論調が多いんじゃないかと想像する。知らんけど。

この場合時代の移り変わりの中での人間模様という意味では映画は題材の一つに過ぎなくて、例えば音楽だったら小室哲哉と華原朋美とかで同じように作ることもできるような気もする。

むしろ今作はビルドゥングスロマンとしての出来がめちゃくちゃ良くて、感覚としては青春映画を見ているようだった。かなり特殊な青春ではあるけど。時代の移り変わりの中で挫折するもの、飛び越えていくもの、生きながらえていくもの。主人公三者三様のドラマは十分に見応えがあると思うのだが。中国系とアフリカ系の主人公に近いサブキャラも合わせて五者五様ということか。

そもそもデイミアン・チャゼル監督作品は、個人的におしなべてグルーヴが合うので、中だるみしようが、唐突に話が飛んでしまおうが、流れが全て愛おしくて。

これは監督の出自によるものだけどやはり音楽が素晴らしいのも特筆すべきところ。あの時代あそこまでドラムは音が大きくなかったはずなのに、そこはやっぱりドラマー出身なんだな。どの劇伴も演奏がむちゃくちゃかっこいい。

尿、血、涙、汗、ゲロ。果ては精液、うんこ(これは意味合いが違うが)この辺の不潔感が品位を下げていると攻撃もされようが、体液を一気通貫することで、これでもかと叩きつけることで文字通り人間とあの時代の生々しさが出ていてこれも好き。「パフューム」と同じく画面から匂いが漂ってくるんだよな。

大傑作だと思うんだけど。
穂苅太郎

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