メシと映画のK佐藤

アンテベラムのメシと映画のK佐藤のネタバレレビュー・内容・結末

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

設定はすこぶる面白く、種明かしの部分を巧くやっていれば満点であった実に惜しい作品でした。

「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ。」と云うウィリアム・フォークナーの言葉が表示されるオープニング。
南北戦争時代に生きる黒人奴隷のエデンと現代に生きるリベラルな黒人社会学者のヴェロニカが、同じ顔(同じ演者がキャスティングされている)。
南北戦争時代に始まった映画が、ヴェロニカが夢から目覚める形で現代の場面に切り替わる。
以上の事からヴェロニカが何らかの形でタイムスリップしているか、「君の名は。」の様に何らかの形で違う時代に生きる者の意識がリンクしているか、ヴェロニカがエデンの生まれ変わりである…と本作は観ている者に考えさせます。

ところが、これがミスリード。
エデンとヴェロニカは同一人物で、南北戦争のパートも実は現代の出来事。
黒人の社会的進出を快く思わぬ議員を中心とした勢力がヴェロニカの様なリベラルな黒人達を密かに拉致し、南北戦争を擬似体験させるテーマパーク「アンテべラム」にて奴隷として使役させていた…と言うのが真実でした。
上述のフォークナーの言葉が実は壮大な布石になっていた事。
ヴェロニカを陥れた連中に限らず黒人への差別意識は至る所に日常的に存在している事をさり気なく現代パートで描写する(ホテルやレストランのヴェロニカに対する嫌がらせじみた事等)事によって、南北戦争時代に起きていた人種差別的な犯罪行為は復活してもおかしくないと云う恐ろしさ巧く伝えられていた事。
以上の様に二つの時間軸の物語と思わせておいて実は一つの時間軸の物語であったと云うギミック自体はすこぶる面白かった。

ですが、その真相を明かす種明かしの部分がギミックに対してえらく稚拙だったのが非常に残念でした。
何の前振りも無く議員の携帯電話が鳴って判明するなんて、面白みも糞も無いですよ…😅
もうちょいこんな唐突感を何とか出来なかったのかな。
パンフに寄稿されてたコラムによれば、奴隷達が唄う歌や南軍の兵士達が唄う歌が南北戦争時代の後に作られた歌である事や、奴隷は貴重な労働力なので支配者層が奴隷を殺す事は無かったのに本作の黒人奴隷は結構殺されている事がどうも布石になっているそうなのですが、それって余程ここら辺の歴史に精通してないと分かり辛いと思います。
この種明かしの部分が本作の面白いギミックに見合うものになっていたら言う事無しだったのですが…うーん、実に惜しい!