電気羊

プロミシング・ヤング・ウーマンの電気羊のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

この作品の構造とその魅せ方、そこに込められたメッセージ性、ポップなように見えてすごく深いものが見え隠れするのがたまらなく良い。

キャシーの第一印象は誰がみても最悪なもの。
泥酔し、スカートの丈など気にせず足を開く彼女は痛々しくてみていられない。
たちまちそんな様子をチャンスとでもいうように
男がそばに忍びよる。
そのままお持ち帰りされるキャシーをどきどきしながら見つめる私たち(観客)は、それさえも全てがキャシーの手の上で転がされていることに気づく。
ベッドの上での彼女の表情がそれを物語る。
朝帰りに返り血を浴びたかのように、
ホットドッグのケッチャップをたらしながら歩く彼女は勇ましい。

そんな彼女の日常に目を向けると、どこかパッとせず日々に鬱屈としているようにみえる。
あのキャリーマリガンの死んだ目は最高です。笑
だんだんと見えてくるキャシーの過去から、
彼女の時間がその瞬間から止まっていることに気づく。
彼女の部屋はまるでティーンエイジャーのようで、持ち物までが幼く、子供のよう。
それでいて、時たま聖母のような表情を臨かせる。
背景も相まって、絵画のようにもみえる。
心だけが取り残されているように。

周りのだれもがある女の子の存在を忘れていく中で、
自分だけは片時も忘れずに思い続けるキャシーの
心の強さに涙が出る。他人からするとただ執着してるだけだとか、とらわれているだとか思われるかもしれない。
だけど、彼女は自分の命を賭してでも守りたかったもの、知ってほしかったこと、思い出してほしかったことがある。
キャシーが炎で焼かれてしまうシーンは、悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。
だけれど、彼女の想いは肉体を離れても尚、
強く強く増大していく。
ラストの展開は目が離せない。


当時の映像からライアンの過去を知ってしまうシーンは言わずもがな素晴らしいんですけど、
個人的にはウォーカーを訪ねた帰り道で暴言を吐いた男に一発かました後、道路の真ん中で立ち尽くすキャリーマリガンが最強によかったです。
彼女は最後の最後までひとりで戦い続けた、勇気ある素敵な人。
電気羊

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