Hiroki

プロミシング・ヤング・ウーマンのHirokiのレビュー・感想・評価

4.2
これも途中で書く事をちょっと躊躇してしまっていた作品。
考えるべき事が多すぎる映画…

2021年アカデミーの脚本賞でエメラルド・フェネル初監督作。
製作総指揮/主演にキャリー・マリガン、制作会社がマーゴット・ロビー率いるラッキーチャップエンターテインメントという非常に女性による力強いメッセージの込められた作品です。

映画はやはりその時代時代を描くモノだと思っているので、今の時代にこーいう作品が多くなってきてるという事はもうそこまできているのだと思う。
とあるドラマの言葉を借りれば、雪崩は既に起きていると。

これ監督が公言しているかわからないのですが、たぶんフランソワ・トリュフォーの『黒衣の花嫁』(『La Mariée était en noir』)を元にしていると思うので、それの現代版ですよね。花婿ではなく親友の女性の復讐という。
日本でいうと必殺仕置人です。
物語は主人公のキャシー(キャリー・マリガン)がアメリカで(日本でも)横行しているデートレイプをしている男たちを片っ端から誘い出して天誅を下していきます。
そして親友をレイプして自殺に追い込んだアル(クリス・ローウェル)に復讐する。
このアル役のクリス・ローウェルを始め自称小説家ニール(クリストファー・ミンツ=プラッセ)や自称“ナイスガイ”ジェリー(アダム・ブロディ)などなど普段は好青年を演じる事が多い役者をキャスティングしてるのも絶妙です。
好青年に見える男性が実はデートレイプみたいな事をしているんだぞというアイロニックなメッセージ。
そして男たちに留まらずレイプを揉み消した医学部長ウォーカー(コニー・ブリットン )、見て見ぬふりをした同級生マディソン(アリソン・ブリー)、アルの弁護士グリーン(アルフレッド・モリーナ※なぜかノンクレジット)にも及びます。
自分には関係ない、仕事だから仕方ないと思っている人たちも「既にあなたも加害者なのだよ」と。
日本にもいますよね。
「配偶者の暴力が離婚の原因でもそんな男を選んだあなたが悪い、ある程度は自己責任。」
とか言ってるある政党の女性議員が。
この発言自体が本当に信じられない(信じたくない)事ですが、そーいう見て見ぬふりをする、むしろ加害者側に加担するような人間をもキャシーはどんどん鉄槌をくらわせていきます。

そして繋がる衝撃のラスト。
自分の死すらも計画に入れた復讐劇の終幕。
途中でキャシーが天使みたいになるような構図のショットがやたらと多かったのですが、ここへの伏線だったんですねー。
いやー本当に凄まじい脚本だなー。
この作品は間違いなく復讐の映画なんだけど暴力描写がほぼないんですよね。
ここで暴力によって物事を解決していくという事は簡単だし映画としては映えるんだけど(ジョン・ウイックみたいに)、それは相手のやってる事と変わらないわけじゃないですか。エメラルド・フェネルの示したかった事はそーではなくて、別の解決方法をきちんと提示していく。
その方法がキャシーが自分の死をもって相手に復讐を遂げるという事だった。
これは現実社会がどれだけ女性を厳しい状況に追い詰めているかを示唆しています。
医学部を出て前途有望だった1人の女性が、親友がレイプされて自殺した事へ抵抗する唯一の方法が自分の死でしか有り得なかった。
彼女が復讐したい相手はきっともう1人いて、それは自分自身だった。
親友を救う事のできなかった自分自身への戒め。
それこそが『プロミンシング・ヤング・ウーマン』(前途有望な若い女性)の意味なんじゃないかと感じました。

でもこの映画のもう一つ凄い所は基本的にコメディとして描いてるんですよね。
学生時代にレイプされて自殺した親友の復讐をブラックとはいえコメディとして描くってとてつもなくないですか?
ミュージカル的な歌って踊るシーンとかあるんですよ。
エメラルド・フェネルがインタビューで話してたのが、

「この映画はキャンディー。カラフルでポップでかわいくて楽しいキャンディー。でもそのキャンディーには毒が入っている。」

コメディ的な脚本やポップな音楽、カラフルな衣装や美術に覆われた非常に強力な毒。
エメラルド・フェネルというクリエイターの巧みさが溢れています。
そして主演のキャリー・マリガンもキャリアハイの演技。
彼女の今までの役から180度変わった、復讐を誓う女性の強さや焦燥感が滲み出る難しい役を完璧に演じきっていた。

キャリー・マリガンは役者として、エメラルド・フェネルは役者/プロデューサー/監督/脚本など多彩な才能に満ち溢れたクリエイターとして、まだ30代半ばの女性たち。
“プロミンシング・ヤング・ウーマン”たちの未来が明るい事を願うばかりです。

2021-129
Hiroki

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