静

プロミシング・ヤング・ウーマンの静のレビュー・感想・評価

4.5
女性であること・酔っていることだけで、抵抗できない・しないと見なされ振るわれる暴力から目を逸らすことを決して許さない。暴力を振るった者にも、見過ごすことで暴力に加担した者にも、記憶を覆う蓋がこじ開けられ、直視せざるを得ないところまで追い詰める。終始、その鋭さを、観ている私も突きつけられていた。自分が過去に友人を一面的な性役割のイメージに嵌め込むような発言をしてしまったこと、それを謝れなかったことが思い返された。アルの件はじめ何件もの性暴力を闇に葬った弁護士と同じように、私も懺悔する場を求めていると感じた。だが、懺悔したとて行為や発言は取り消せず、私にできることは過ちを繰り返さないことくらいなのだとも感じた。
カサンドラは親友に性暴力を行使した、または加担したできるだけ多くの者が罰を受けたり自分の行いに直面するよう、打てる手を全て打った。結果として、最後の一手がアルに自分を殺させ殺人犯として警察の手に渡すことだった。命を使って賭けに出たわけではなく、親友への性暴力の証拠映像を、最も確実な手段で警察に届ける算段を整えた上での、最も効果的な一手であった。自分の命を犠牲にしたと言うより、命を使うほかなかったのでそうしたに過ぎない、と言う方が、それまでの彼女を見ていたらしっくりくるように思う。彼女の信念を貫く鋭さに心を撃ち抜かれる。そして、そうするしかなかった、という事態の厳しさに、自分が今生きている社会にもその厳しさがあることを否応なく突きつけられる。
それでも、想像してしまう。もしもライアンが、自分もアルによる性暴力を見過ごすことでニーナを傷つけることに加担していたと認め、現在の小児科医としての地位を失うことも覚悟し、証拠映像を警察に提出することを選んでいたとしたら。その場合、カサンドラは恋人を失ったとしても自分の命を失う選択はしなかったのではないか。それに、自分を女性であるだけで蔑まずに人間として好意を向けてくれていたと信じたかった相手が、自分の親友への性暴力に加担し死へ追いやったことの悲しみを、彼の前で殺さずに済んだかもしれない。そのことがやりきれないし、悲しい。
静