まぬままおま

轟音のまぬままおまのネタバレレビュー・内容・結末

轟音(2019年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

安楽涼さん若いな~~~
最初の兄の主観ショットで、時空間を飛び越えて捕まる経緯を表現したり、風景の実写から垂直にティルトダウンして、飛び降りようとするアクションにつないだりと、監督の「やりたいこと」が滲み出てて面白かった。福井という固有性をもった場所が舞台になるのもよいですね。

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とはいえ、登場人物たちが「会話」してないんですよね。安楽涼演じる誠が、片山監督演じる浮浪者の男の髪を切るアクションをドラマに仕立てるように、本作は登場人物の関わり合いをセリフではなく動作で描こうとする。髪を切るほかに殴るやキスをする、手向けるなど。それはそれでいいし、説明セリフを極力減らそうとする意図なのだろうけど、言わなければ伝わらないことは往々にしてある。誠が「すいません、すいません」言ってるだけでは、誠の心情に変化は起こらないし、〈出来事〉は表面的なものにしかならない。
群像劇にするのもどうなんですかね。ラジオパーソナリティとディレクターのパートと介護が必要なほど年老いた父と娘のパートは、正直に言えば物語に奥行きを与えるものではない。おそらく前者は不倫と遠隔ローターのくだりをやりたいだけである。まあ、過大に解釈すればこの二つのパートは、福井という地方に生きる人やそこでの仕事や家族のつながりを描こうとするものである。ただそれは誠の物語には全く介入しない。誠の〈出来事〉はおろか、誠は逃亡して仕事どころじゃないし、家族の関係は既に破綻している。だから結局、この映画が何なのかよく分からなくなる。

兄の主観ショットから始まるのに兄は一切登場せず、誠と家族の話かと思いきや彼以外皆死んでしまう。誠と浮浪者の話かと思いきや、会話はほとんどなく、浮浪者の真相を元締めに聞く始末だし、ラジオパーソナリティの恋の行方なんて全く興味ない…。
だから心情を深く掘り下げられていない登場人物のクローズアップと悲鳴という名の轟音をみても、響くものは正直ない。

単に誠と浮浪者の話にして、彼らが家族と折り合いをつける物語とそれに向かっていく会話が展開されれば、すっきりする気がする。だがこんな意見は雑音でしかない。