木野エルゴ

ナショナル・シアター・ライヴ 2020 「リーマン・トリロジー」の木野エルゴのレビュー・感想・評価

4.8
サムメンデスの作品は箱庭の中を覗いているかのようだ。全てが計算通りで、一点の想定外も無い様に見える。たとえそれが生モノである舞台であっても。むしろ舞台であるからこそその完璧さが際立つ。

箱庭にあるものは全て洗練されたもので、さらに一点一点が全て高級品で安価な工場製品は一切置いてない。ミニマリストの部屋の様に意味のない物は何一つ置いてない。シンプルな世界で無限に複雑な事象を引き起こす。そしてそれを実現させるキャストやスタッフも、もちろん超一流でなければ務まらない。最適化された脚本、最適化された舞台装置、最適化された音楽。

アダム・ゴドリー、サイモン・ラッセル・ビール、ベン・マイルズ。3人のこの上なく素晴らしい俳優が、演じるという枠を超えて衣装も化粧も何一つ変えることなく有象無象に変身する。(ただし小道具は使う)一挙手一投足、視線の先まで、まるでダンサーの様に一糸乱れぬ3人のアンサンブルは観客の反応さえもコントロールする。目が離せないとはこのことなんだと思う。

人の欲望はどれだけ掘り返しても興味が尽きない。
木野エルゴ

木野エルゴ