風間唯

るろうに剣心 最終章 The Beginningの風間唯のレビュー・感想・評価

3.0
ハリウッドアクション映画のルーツといえば西部劇、邦画のそれはやはり剣戟だろう。ハリウッドでもタランティーノや『ラスト サムライ』のようにこの分野に意欲的に挑戦する作品はあるものの、迫力や奥行きの点で邦画に一日の長があるのは当然のこと。その剣戟映画の流れを正当に受け継ぎつつもスケールアップを果たしたのが映画『るろうに剣心』シリーズ。その最終作となる大友啓史監督『るろうに剣心 最終章 THE BEGINNING』を製作配給元のワーナージャパン本社にて一足先に鑑賞させてもらった。

和月伸宏の原作が”明治剣客浪漫譚”とうたっているように本来は明治時代初期の物語であるものの、本作はその前日譚、幕末の京都をその舞台にとる。物語上の謎とされていた剣心の頬に刻まれた十字傷と不殺の誓いの由来が明らかにされるというもの。その基軸に据えたのが有村架純演じる雪代巴との恋愛譚。身寄りが無いと言う彼女と剣心は図らずも同居することに。小津安二郎の喜八もの『出来ごころ』や『東京の宿』の例を引くまでもなく、惻隠の情が恋心に発展するのは必定、しかし小津の人情コメディに対し本作では悲劇の運命をたどることになる。その悲恋を描く切なくも残酷なラブストーリーがこの映画最大の眼目だ。

とはいえ剣心シリーズの華であるアクションシーンは健在。緋村が剣心になる前、人斬り抜刀斎時代の話ゆえその活劇は殺伐かつ凄惨。冒頭対馬藩邸での立ち回りには血の匂いさえ漂うほどだ。劇上のクライマックスは北村一輝演じる隠密頭領辰巳との激闘だが、私個人としては村上虹郎演じる新撰組一番隊組長沖田総司との一騎打ちが白眉。スピードと迫力が段違いで、原作でちらとしか描かれなかったこのシーンのためだけでもこの映画を観る価値ありと断言する。惜しむらくは斎藤一との対決が無かったこと。沖田や瀬田宗次郎はどちらかといえば剣心と同じく技とスピードが持ち味、斎藤や土方のような剛剣タイプとの果し合いを見てみたかったのは私だけではないだろう。

夜間のシーンが多いこともあるが、幕末京都という舞台背景が作品全体をダークに染め上げる。ただガス灯ではなく燭台の時代なのだから、溝口並にしろとまでは言わないが照明はもう少し落とした方がより雰囲気が出るのでは。また長州藩士らが投宿する小萩屋や剣心と巴が身を隠す農家、隠密のアジトなどセットの素晴らしさは特筆もの。VFXばかりに頼らずセットとリアルな雪や炎で勝負する姿勢が作品に重みを与えている。

役者陣について言えば桂小五郎役の高橋一生が良かった。『スパイの妻』でも思ったが、一癖も二癖もありそうな目と面構えが幕末の志士にぴたりとはまっている。
風間唯

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