Yoshishun

PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTORのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

どう考えても未回収の伏線が多く、完全に不完全燃焼だったTVシリーズ第3期。Amazonプライムでの全世界同時配信に加え、2週間限定で劇場公開されるに至った本作にて物語は完結する。製作スケジュールの都合を感じさせる続編だが、こうして大画面で観れるのは非常に有難い。また配信版ではエンドロール後の影像が含まれていないため、こんなご時世ではあるものの興味ある方は映画館での鑑賞をお薦めする。

先に言っておくと、本作は完全にTVシリーズの延長であるため完全未見者お断りである。少なくとも第3期は予習しておく必要がある。また第3期以外予習済も避けたいところ。本作は第3期の延長でありながら、8年にも及ぶサイコパスの物語の集大成に近い。シリーズ全作予習済の人ほど大いに楽しめるはずである。

本作は、まさに第3期の最終回直後から始まる。元刑事課1係の六合塚の事故シーンから描かれていく。実はあの直後から既に梓澤のゲームが始まっていたことがわかる。冒頭10分とハイスピードで公安局本庁は占拠され、ダイ・ハードな密室戦が展開されていく。

本作では灼のメンタルトレース時に現れる狼の正体、シュビラシステム創設以前に存在していたビフロストの正体、1stインスペクターこと梓澤康一の目的など、TVシリーズでは明かされなかった多くの謎が一気に明かされる。駆け足なのは致し方ないとして、全て台詞で完結することなく、映像として表現していたことは良いと思う。ただそれでも朱が収監された原因、篤志の事件、一係・前監視官の事故など、まさかの次回作に持ち越された謎も多い。シリーズ構成及び脚本に関わった冲方丁の悪癖は本シリーズでも例外ではなかったようだ。

幾多もの謎が未解決のままなど展開の雑さは否めないものの、それでも続編としての側面も踏まえ、劇場公開を前提とした演出が満載だったのも確かである。見所は、シリーズ定番の肉弾戦だけでなく、現場からは一線退く唐之杜分析官の頭脳戦も最高の出来映え。ダンゴムシを駆使したCGバトルは映画館の音響で是非堪能していただきたい。

本作を経て、シリーズを通して描きたかったものがわかる。第3話に登場した人工知能マカリナをはじめとしたAI。シリーズにおいてシュビラシステムという存在と人間の共存の在り方は描かれ続けている。第1、2期では常守朱、第3期では灼がそのテーマに対面する。しかし導き出された答えは、朱と同じように"システムに人が支配されてはいけない"。本作では、さらに踏み込んで執行媒体であるドミネーターについても言及される。罪人の処罰はドミネーターが行うが、最終的な引き金はそれを扱う者に委ねられる。引き金を引くか引かないかの選択は、まだ人間に委ねられているのがドミネーター、そしてシュビラの最大の利点であり、弱点である。これを凌駕する何かが現れたときが、シリーズの結末へと繋がるのかもしれない。

TVシリーズ第3期の完結編でありながら、2012年から始まったシリーズの集大成ともとれる本作。シリーズで初めてメインキャラの死が確認されず、第1期から追いかけたファンは思いがけないラストに多幸感を感じるかもしれない。製作スケジュールの都合か作画崩壊が複数箇所見られるものの、それなりの満足感を得られる劇場版だ。
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