Yoshishun

夢みるように眠りたいのYoshishunのレビュー・感想・評価

夢みるように眠りたい(1986年製作の映画)
4.3
“幻の傑作”

佐野史郎初主演作にして、約35年と長らく円盤化することなく、またオリジナルフィルムも紛失していた幻の作品。2020年頃に奇跡的にオリジナルのネガフィルムが発見され、リマスタリングが施されたことで今では鑑賞も比較的容易となっている。まさに幻と謳われた本作だが、噂に違わぬ傑作だった。できればこんな駄文レビュー読む前にさっさと視聴してほしいところである。

私立探偵を営む魚塚と彼の助手の前に、謎の老婆・月島桜から誘拐された娘の桔梗の捜索を依頼される。多額の報酬に目が眩み事件を追うことになった2人だが、謎を解き明かすにつれ哀しき真実が浮かび上がってくるのだった‥‥

できればFilmarks上のあらすじも読まずに鑑賞してほしいのだが、まさに古き良き探偵映画でありながら、近代日本映画の魔術師・大林宣彦が全面協力に携わったこともあり、夢と現実の境が曖昧になる視覚的マジックにも溢れたファンタジー映画でもある。敢えてサイレント(活弁士や効果音はある)かつモノクロームで綴られた映像や、ほんの少し久石譲味を感じさせる哀愁感じさせるメインテーマ、バキバキに決まり過ぎたクールな構図、そして依頼主の名前の通り、散りゆく桜と魚塚の姿を捉えたラストシーン。当時は内容もさることながら、あまりに実験的な手法を取られたことでヒットは見込めなかったらしいが、デビュー作とは思えない程に作り込まれた構図や世界観はハマる人にはハマる。80分弱という尺も丁度いい。

社会的な背景と世論により弾圧された哀しき映画を甦らせ、翻弄された先に待ち受ける結末は露骨に感情に訴えかけることもなく、説明過多な邦画とは一線を画す作り込み。本作が気軽に鑑賞できる時代になったのは本当に喜ばしいことだ。強いて言えば、夢と現実が切り替わる瞬間の演出の乏しさや、昭和と大正が入り乱れたレトロな世界観が若干飽和気味に感じなくもないが、失われた映画を取り戻すのは劇中映画のようにロマンを感じさせる。

今日はいい夢見るように眠れそうだ。
Yoshishun

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