朝田

罪と女王の朝田のレビュー・感想・評価

罪と女王(2019年製作の映画)
3.2
デンマーク出身の監督だけあってトリアーの作品を思わせるような人間に対する冷たい視線、大胆な性描写、そして見たあとに苦味を残す後味がある。男性が女性へ被害を加えていく話はよくあるがその逆を描く話は中々ない。難しいテーマだがそこは女性監督ならではのバランス感覚で、完全なる悪人も善人も存在していない、「誰しもに罪がある」世界を描いている。引きの画になるとフィックスになり、寄りの画になるといきなり揺れ出すカメラワークの対比がこの映画の全てと思う。一見どこにでもいる富裕層の家庭のように思えても、よく観察すればそこには大量の摩擦が生じておりいつ崩壊してもおかしくないほど儚いものなのだという事。北欧映画らしい端正なショットのセンス(木の下で妻と義兄が佇むショットは本当に美しい)や不穏な音楽のセレクトなど洗練された秀作だ。しかし、全体としてはやや疑問が残る所も。端的に言ってもっと省略出来たはず。カメラを逆さにしたり、木々にただクローズアップしたりとイメージ的なカットを挟みすぎて物語としてのドライブ感が中断されてしまう。あとは端的に題材に対して時間が長すぎる。せっかく家族と夫の息子が別れ車に乗り込みその風景を後部座席のガラス越しから眺めた長回しがキマッたショットが撮れているのだからそこで終わっても良かったのではないか。これはこの作品に限らず最近の映画にありがちな事なのだが、「後日談」を律儀に描きすぎて作品としての切れ味や見た後に想像する余白が失われてしまっている。そんな訳で後半の失速感は残念であったが、基本的には新人とは思えない緻密に出来た作品だとは思う。
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