しちれゆ

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のしちれゆのレビュー・感想・評価

3.8
この伝説の討論会が安田講堂陥落よりあとに行なわれたものだというのをこの度初めて知りました。なんだ、宴のあとじゃん。置いてきぼりを食らった者が精一杯の矜恃を持って迎え入れた三島はしかし彼らより一枚も二枚も上手(うわて)だった。高みに立つものは激しない、苛立たない、それを証明するかのような三島の穏やかな語り口。今で言う国総にトップ合格した父と漢学者の娘を母に持ち女中や書生に囲まれて育った三島と、例外はあれど庶民家庭で生まれ育ち地方の高校からやっとの思いで東大に合格した人間と。全共闘随一の論客と評される芥も逃げ道として自分の赤ん坊までも腕に抱えて登壇、卑怯じゃない?と思う。しかも紫煙もくもく、当時の世相が恐ろしい。
「言葉は言葉を呼んで翼を持って飛んでいく」と事も無げに言う三島の頭の中を、彼の文学を通さずに垣間見られた幸せな体験。理念や感情は言葉に置き換えられて初めて命を持つ、すなわち多くの言葉を我が物とすればするほど心も豊かになっていく、という逆説を身をもって示した知の人。意外にもつぶらな瞳と薄い唇が色っぽい。
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