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わたしはダフネのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

わたしはダフネ(2019年製作の映画)
4.8
 これはもう、昨年、試写で見せてもらって以来(コロナで公開が一年延期に)、最大にイチ押し、推しを盛大に燃やしたいくらい(もちろん炎上という意味ではなくてネ)で、是非ヒロインのダフネに会いに映画館に行って欲しい! 真っ赤な髪のダフネはダウン症の立派に自立した30代の女性で、まあ、彼女のチャーミングなこと! 賢いこと! しっかりしてること! 誰にも愛されてること! 

 山あいのキャンプ場でのバカンスの終わりに母親が倒れて突然帰らぬ人となってしまう。茫然とする父のルイジとダフネ。それでもやがてはふたりの日常が始まる。

 ダフネは生協のスーパーに勤めている。戻って来たダフネを迎える同僚たちの振る舞いの気持ちよさといったら! いささかやさぐれている風の新人の女性に対しても、ダフネの率直さと生真面目さは変わらない。「仕事は大好き。この職場の全部が好き」。
 それはきっとダフネが自分自身を大好きだから−−−−ダフネは、例えば見栄とか忖度といった計算高さとは無縁だ。ダウン症というとまず知的に障碍があることが思い浮かぶけれども、実は健常者が見失いがちな人間性を全力であるがままに生きているひとたちなのかもしれない。

 が、妻を失った父のルイジは途方に暮れていた。不安で混乱し、弱音を吐く父に、ダフネは母の故郷へ歩いて行こうと提案する(言わば私的な〝巡礼〟で、古来、身心を快復に導く方法でもある)。山道をひたすら歩きながら、さりげなく励まし合うふたり。夜、宿の女主人にルイジはダフネが生まれたときのことを話す。ダウン症と知って3日間は会いに行けなかったこと。妻が「抱いてみて。私たちと同じ匂いよ」と言ったこと・・・・・・。

 翌日、ダフネは偶然出遭った森林警備隊の2人組の車に乗せてもらう。気のいいイケメンの2人にダフネは言う。「2人ともハンサムね。体格もいいし。婚約者はいるの?」「どちらもいるよ。で、君は?」「幸せな確信犯的おひとりさまよ。つき合っていた彼とは6月20日に別れたの」「なぜ?」「プライバシーよ」。そして車を降りるとき、「僕にもハグを!」「もちろん! オトコにしては詮索好きだけれど」(以上は私のメモによる再現。ちなみに彼と別れた理由は彼がウジウジするタイプだからだったような)。
 ああ、このダフネの魅力をどんなふうに伝えればいいか!

 監督によれば「数年前、年老いた父親とダウン症の娘が手を繋いでバスの停留所にいるのを見た。失踪する車と通行人の中でたった二人、静かに立ちつくすその姿は、まるでヒーローかサバイバーのようだった」。そこから生まれたのが本作だという。
 もちろんダフネを演じたカロリーナ・ラスパンティの寄与は絶大だ。「カロリーナはダフネそのものだ。・・・カロリーナが映画に合わせるのではなく(彼女は脚本を1ページたりとも読んでいない)、映画がカロリーナに合わせる必要があった」。

 そのカロリーナ・ラスパンティは実際に現在も地元の生協スーパーに勤務しているとか。2冊の自伝小説があり、本の収益はダウン症の人々のために寄付し、イタリア各地で講演活動も行っている。

 う〜ん、私は彼女にミ〜ハ〜して、追っかけをしたい! でも、きっと言われるだろうな。「あなた、私の追っかけをするヒマがあるなら、他にやるべきことがあるでしょ!」。
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