Jun潤

耳をすませばのJun潤のレビュー・感想・評価

耳をすませば(2022年製作の映画)
3.8
2022.11.04

松坂桃李出演作品。
情報解禁時から、95年に公開された名作アニメを、実写の上10年後を舞台に映像化ということで、賛否のうち否の方が多かった印象です。
コロナ禍の影響でしばらく音沙汰ありませんでしたが満を辞して今秋公開。
封切りから時間が経ってしまいましたが、怖いもの見たさよりもエモさを期待して今回鑑賞です。

1988年、小高い丘の上で夢を叶えることを約束した2人の中学生、雫と聖司。
10年後、聖司は夢を叶えてイタリアでチェリストとして働いており、雫は小説家になることを夢見て執筆を続けるもコンクールでは落選、出版社の仕事にも身が入らなくなっていた。
シェアハウスをしていた中学生の頃からの友人・夕子が杉村と結婚することを機に引っ越すことにした雫は久しぶりに実家へ帰る。
雫はそこで、中学生の頃の聖司との出会いや夢の始まりを追想する。

これは、、なかなかよかったのでは?
期待値を下げて鑑賞した分、思いの外良くて好印象の方が強く残りました。
アニメの実写化といえば悪く聞こえてしまう人もいるかもしれませんが、10年後のストーリーはオリジナルで中学生時代のエピソードもアニメ映画版に改変が加えられているなど、一つの作品としての完成度が担保されていました。

序盤こそアニメ映画版の鑑賞が必須のような雰囲気を感じましたが、中学生時代を丁寧に描写していることで、今作なりの雫と聖司の出会いと恋、それぞれが進む夢の行き先、現在の仕事と将来への不安と期待がよく描かれていたと思います。

アニメの実写化ということも今作においてはプラスに作用していました。
アニメ映画版が有名すぎて、アニメの方でも見た展開だなと思うところはありましたが、中学生時代の子役たちがいい意味でアニメーション調の大げさな演技をしていて、写実的に描かれていた大人編と合わせていい対比になっていたと思います。

アニメ映画の方では中学生男女の淡い恋模様を描き、将来への不安と期待を孕んだ良い終わり方をしていましたが、今作では10年後を描くことで好きな人を想い続けること、夢を追い続けることのその先まで描かれていました。
思い描いていた通りには進まない夢を叶えるための道筋、日々の仕事や世間のしがらみによって変わっていく自身の内面、綺麗事ばかりではいかない純愛など、歳を取るにつれて考えることもしなくなってしまった純粋な感情や自身の原点について、『耳をすます』という簡単に見えてとても難しいことでもって乗り越えていく雫と聖司の姿が刺さりました。

最後に時代設定について。
鑑賞前の懸念点の一つで、公開当時から10年後というと昔でもないし最近でもない中途半端な時代が舞台になるかもしれないという不安は、そもそもの中学生時代を1988年に設定することで、大人編の舞台も90年代になるという、シンプルだけどまさかな手法で個人的には解決できました。
そのおかげか、バブルを引きずっている上司やタイタニックの公開、テレフォンカードや地図帳を持って旅行するなど、レトロな雰囲気を感じ取ることもできました。
Jun潤

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