netfilms

マリグナント 狂暴な悪夢のnetfilmsのレビュー・感想・評価

マリグナント 狂暴な悪夢(2021年製作の映画)
2.1
 今作を観た人にしか伝えられない「あれ」の設定が色々とおかしくて、どうネタバレ抜きに書こうかしばらく考えたのだけど、やはりそれはどう考えても無理そうなので、ここではネタバレ部分を一旦「あれ」と仮定することにする。僕たちの住む世界では森羅万象、本当に様々な出来事が起きるし、奇跡のような神秘体験も枚挙に暇がない。しかもこれは映画だから一見出鱈目にしか見えないことも案外、簡単に起こり得るのだと頭では理解しているけれども、それでも頭をしたたか打ったくらいで「あれ」が目を覚ますんなら、とっくの昔に「あれ」のお目覚めは起きていただろうし、どう医学的に見てもそんなことは起こりそうもない。だがこれは映画なのだから「あれ」の存在をうっかり私たち観客に信じさせてくれれば良いのだ。もし「あれ」を誘発するものが統合失調症もしくは解離性同一症あたりで、夢を見ていたはずのヒロインが夢遊病のごとく人を殺しにかかるのならば合理的に腑に落ちたはずだ。ところが今作では有り得そうな幾つかの合理的な理由を破棄し、一番有り得なさそうな道を選んだことで確かに映画的な驚きは断トツだが、私には「あれ」の設定も何もかもが絵空事に見えてしまい、鼻白んでしまった。

 おそらくジェームズ・ワン自身はデヴィッド・クローネンバーグの『ザ・ブルード/怒りのメタファー』や『戦慄の絆』、フランク・ヘネンロッターの『バスケット・ケース』、ウェス・クレイヴンの『エルム街の悪夢』あたりを上手くつなぎ合わせて今作の引用源としているのだろうが、今作をもって「恐怖の最終進化形」と呼ぶのにはあまり感心しない。それら引用源の方が遥かに「恐怖の最終進化形」には近く、今作はせいぜい「恐怖の最新型」くらいの表現であって、作り手と受け手とのボタンの掛け違いではないか。確かに今作の「あれ」のアイデアは新しいは新しいが引用源のどれと比べてもまったく怖くない。「あれ」の登場は果たして悪夢なのか?それとも信じられないことに現実に起きた出来事なのかという観客の興味がある種、臨界点を迎えたところでそこにあっと驚くアイデアで観客の想像をひっくり返す。それ自体は成功しているかに見えるが結局、「ホラー」と「オカルト」の狭間で反則すれすれの「奥の手」をぶっ込んで来たようにしか見えない。その意味ではホラー映画ファンが溜飲を下げる結果にしかなっていない。ホラー映画はもっと外の世界に向けて発信されるべきであり、時代の空気をもっと貪欲に吸い込みながら表現を膨らませるべきであって、ジェームズ・ワンにはもっと新しく開かれた映画を撮って欲しいのだが無理な注文だろうか。アイデアをどんどん膨らませていけばいくほど、イメージの限界がすぐに訪れるという21世紀的な創作者の憂いがここでも露わになる。
netfilms

netfilms