このレビューはネタバレを含みます
冒頭、どこかの研究施設で奇妙な人型の異形が施設の人達を惨殺するシーンから始まる。麻酔で大人しくなるので超常の力はあっても肉体は普通? となったところでオープニング。カルテに意味深な言葉が散りばめられ、今後の展開を予感させる。
(後からこの場面の博士の言葉とオープニングでほぼ全てを語っていることがわかる。終わった後にあの時のあれはこういうことだったのか、となる見せ方が上手い)
妊娠中の看護師?マディソンが自宅に帰ると機嫌を損ねた夫デレクに後頭部を打ち付けられ出血。部屋に鍵を掛け、一人ベッドで休むマディソン。夜、デレクが気配を感じ目を覚ますとキッチンやリビングの電化製品が勝手に動いていた。マディソンの仕業かと思って名前を呼びながら探すが、次の瞬間に背後にいた何者かに襲われる。そのシーンを夢に見たマディソンが目覚めて一階に降りると、本当に夫が首を折られて死んでいる。マディソンも襲われ、気がつくと病院だった。妹シドニーが駆けつけたが、そこでお腹の子が助からなかったことを知る。後日退院して自宅に戻るが家の中や窓の外に何者かの気配を感じ、奇妙な夢を見るようになる。さらに目の前で誰かが人を殺す夢を見るが、現実でも同様の殺人が起こっていることがわかる。被害者が実はマディソンが過去に治療を受けた博士だと判明し、警察に疑われる。マディソンの携帯電話に謎の男から電話があり、マディソンは咄嗟に「ガブリエル」と呼ぶ。ガブリエルはマディソンの幼少期から彼女を操り、悪事を行わせていた。マディソンは真相を探ろうとシドニーと共に母親を訪ねるが……。
ストーリーは面白く、全体的にテンポよく進んでいく。前半で不可解だったことが後半で回収され、全てに理由があったとわかる展開は見ていて気持ちがいい。
また、観た後だとタイトルの『Malignant』が二重の意味を持っていたというか、そのままの意味だとわかる。
途中から『BEYOND: Two Souls』の主人公っぽいなと思っていたら、本当に割とそんな感じだった。この映画の方はより物理で悪意があって、主人公との関係性もどうしようもありませんが。
デレクが本当に最悪なので、直後の退場にはむしろほっとした。マディソンが無事でお腹の子が亡くなった理由が嫌な気持ちになる。過去2年で3回も流産した理由も。養女のマディソンがデレクと別れられず、血の繋がりが欲しかったという言葉が悲しい。シドニーが行動力があって本当にいい子で救われます。
地下の観光案内をしていた女性はてっきり職を変えたマディソンかと思ってました。その後の"悪夢"の描写といいわざと錯覚させるようにしたのだろうが、まんまと騙された。
あと関係はないけど最近サイレントヒル2リメイクをプレイしたので、大きな換気扇が映るたびにテンションが上がってしまった。
捜査を担当するショウ刑事のガッツに目を見張る。三人目の博士が次の被害者だと目星をつけて向かうと殺された直後でそこから犯人との追いかけっこが始まるが、3階くらいの高さから落ちるのとか、狭い隙間から地下に潜る犯人を躊躇せず追い掛けていくところとか。一人でがんがん行くけど大丈夫?とりあえず死なないで!と思わず応援していました。
この一連の追いかけっこで犯人の動きが奇妙なことがよくわかるが、そこもこの映画の面白いポイント。時々ブリッジで移動してるので『エクソシスト』のイメージから悪魔が憑いているのか?と思ったり、妙に髪の毛が変な感じ(カツラっぽく見える)でマディソンに擬態してる?と思わせたり。
養女になる前のマディソンの過去に鍵があると判断し、タイムラインセラピー?をシドニーとショウ刑事が見守る中自宅で行う流れも面白い。
それによりパニック状態になったマディソンを落ち着かせた後に囚われていた女性が自分で拘束を解くシーンが挟まれ、直後にマディソン達がいたリビングに落ちてくる。
その女性はあの観光案内をしていた人物であり、死んだと思われていたマディソンの実母だった。マディソンの夢ではなく屋根裏に囚われていたのだ。彼女はマディソンを産んで間も無く育てられないとして、博士達に引き渡した。当然マディソンは犯人だと疑われ、警察署の牢屋に入れられる。
そこでまとめて入れられた他の犯罪者達に暴
力を振るわれたことをきっかけに、ついに正体が明らかになる。
ガブリエルはマディソンの背中側に寄生していた寄生性双生児でありマディソンと共に成長する意思を持った悪性腫瘍だった。この状態で生まれてきてガブリエルと名付けた母親はすごい。
博士達は様々な研究と実験を施す中、オープニングの虐殺が起こりこの悪性腫瘍を摘出することに決める。ガブリエルはエミリー(マディソン)と脳も共有しているため、操ることも幻覚を見せることもできた。そして脳波を駆使して周囲の電化製品を自由に動かし、ラジオや携帯電話の電波を通して話すこともできたのだ。
全てをエミリーの体から剥がすことは不可能なため、脳に寄生した部分は頭蓋骨の内側に閉じ込めることにして、エミリーは普通の生活を送れるようになり、シドニーの両親に引き取られた。しかしガブリエルは生きており、マディソンとなったエミリーを時々操っていた。3回も流産したのは本来赤子へ行くはずの栄養をガブリエルが奪っていたから。あとシドニーへの殺意から分かるように、マディソンに自分以外の家族ができることが許せなかったのだろう。母親に捨てられたということもかなり恨んでいるようだった。
完全に目覚めたあとのガブリエルの動きが最高に面白い。彼にとっては背中側が正面のため、歩き方も全体の体の動かし方も逆方向でかなり奇妙に映る。そこを大きめのコートを羽織ることでカバーしているので、それまでは違和感はあるもののはっきりとわからなかった。ここでショウ刑事との追いかけっこの際の妙な動きの理由もわかる。
その場にいた犯罪者達を惨殺し、凶器の研いだトロフィーを取り戻すとオフィスにいた警察官達も躊躇なく殺していく。ここのアクションは本当に圧巻でカッコ良いとすら思う。奇妙だが滑らかでスタイリッシュ。コートは勿論だが厚底のブーツもこのカッコよさに一役買っていると思う。
ここでもショウ刑事が頑張るが、取り逃してしまう。相棒のレジーナも腹部を切り裂かれるという重傷を負った。最後出てこなかったけど、良いコンビだったので生きていてほしい。
実母を殺しに行くガブリエルと、居合わせたシドニー。昏睡状態だった母親が目を覚まし、ガブリエルに謝ると動きを止める。そこにショウ刑事が現れ銃で撃つも呆気なく気絶させられてしまう。
シドニーも絶体絶命の状況に陥るがマディソンに呼びかけて正気を取り戻させ、脳内でガブリエルを閉じ込めることに成功する。ここで今までと逆に、マディソンがガブリエルにシドニーと母親を殺すという幻覚を見せていたのが面白い。
脳を共有している彼ができることは、彼女にもできるということ。
そうしてマディソンは自分の体を取り戻し、家族は血の繋がりだけではないということに気がついてシドニーを抱きしめて終わり。ここまで犠牲者を出してこの後どうなるかわかりませんが、マディソンには幸せになってほしいです。
最後の最後、意味ありげなカメラワークで予想はできましたが不穏さを隠しませんね。ここもついビヨンドっぽいなーと思ってしまいました。ホラーにはよくある締めではありますが。
一応前半はホラーではありますが、全体的にはホラーというよりサスペンスとスリラー要素の方が強い作品でした。伏線というか、マディソン視点で夢だと思わせていたことが現実だとわかる流れや途中途中で感じていた違和感の正体が判明する展開は最高に楽しい。パズルのピースがはまっていくという表現がぴったりだと思います。
アクションもあって最後まで飽きさせない、とても面白い映画でした。