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エイブのキッチンストーリーのmitoのレビュー・感想・評価

2.7
2020年130本目。
パレスチナ人の父とイスラエル人の母の間に生まれた、イブラヒム、アブラヒム、エブラヒム…通称エイブは料理が趣味。
ある時、近くの屋台村のリーダーシェフとの出会いが彼の意欲に火を点ける。

アメリカのブルックリンが舞台でありながら、非常にシビアなテーマ、パレスチナ問題が家族の関係に密接している。
親は複雑な関係を自覚しており、息子のエイブを敢えて無宗教として育てる。
しかしエイブは祖父母との関係を円満したいが故に、ユダヤ、イスラム、どちらの宗派の伝統にも興味を示す。

劇中、エイブは仲違いする家族に対して「ただ、仲良くなって欲しいだけなのに!!」と怒りの声を挙げる。
このエイブの考えはアメリカ生まれの孫世代と言う立場においては悪手では無いとも思えるが…、
これを祖父母世代の人間に言い放って、最後は考えを改める…というロジックは少し、否、かなり安易なやり方に感じた。

喧嘩の時に、さらっと祖父母の経験が語られるが、家を奪われたんですよね?祖国から逃げ出すしか道が無いまで追い詰められたんですよね?、そんな人達が「仲良くなって」という願いだけでアッサリ手を握り合えるんですかね?
そんな事で解決するなら、パレスチナ問題はとっくに解決しているよ…その難しさこそ、この問題の肝なのでは?

個人的理想としては、エイブの奮闘に対して、もっと厳しい現実を打ち付けて欲しかった。
孫の為に仲良くしたいのは分かる…でも俺は(私は)イスラエル人(パレスチナ人)なんだ…、そのくらいの拒絶はあって良かったと思う。

で、このくらいエイブを打ちのめさないと、シェフとの関係性が生きて来ない気がする。
この映画、パレスチナ問題をバックボーンにしたエイブの葛藤と、シェフとの関係に余り繋がりがない。
確かに各国の料理や調味料、味の融合、ミックスのコツを通じて自分の家族を仲良くする為に料理を用いるアイディアを得る…といったエイブ側のメリットは多々あれど、シェフ側に何のメリットも無い。

それこそ、初めての出会いで警戒したように、未成年に労働させる事のリスクがあるにも関わらず、彼を受け入れた理由が全く見つからない(ただの熱意に根負けした、しか理由がない)

せめて、彼らが南米からの移民だという設定をエイブの家族にリンクさせるみたいな工夫があれば、良い気もするが、それすら語られない。

総じて、問題を抱えていそうな登場人物が多いのに関わらず、エイブの主張や視点でしか物事が語られないのは、安易かつ危険な考えだと思ってしまった。

もっと多方面の視点の語り口を設ける、もしくは、もっと皮肉を効かせたり、コメディに特化させれば、そういう問題も払拭されたかも知れない。
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