商業映画復帰作なのに主人公の名前がまんまゴダールだったり、妻子との生活が上手くいっていないことを描くという自伝要素をはらんでいたりと人を食ったような構成が相変わらずゴダールらしい作品。でも脚本にカリエールが参加しているせいかいつもの監督作品より軽妙だし作品のバランスが取れているので、主人公や登場人物の悲喜こもごものドラマを抵抗なく楽しむことが出来た。
冒頭の青空のみの映像をはじめ、ペキンバーや深作欣二とは違うスローモーションの使い方など卓越した映像センスが随所で冴え渡り日常のようなドラマを映画へと変貌させるマジックはさすがゴダール。そして列車とキャラクターがすれ違う場面が三度あるが、いずれもシチュエーションが違うしどれもエモい。
様々な女性と触れあおうとするもいずれも上手くいかず、そんななかで唐突に主人公にもたらされる結末は「どうせ俺なんてこの世に必要ないんだ」という監督の愚痴と死への願望が。と同時にそれまで悉く中断されていた音楽がはじめて最期まで演奏されるラストは通り抜ける女性の力強さも相まって女たちへの賛歌にも見える。
イザベル・ユペール(イザベル役)が若すぎて一瞬誰か判別できなかった、そしてマルグリット・デュラスが名前だけ出てくる。
イザベルが娼婦役のため客や売春を斡旋する業者とのやりとりが『マル秘色情めす市場』ばりにねちっこく描かれるが、これは客の要求に従わないとやっていけない商業映画の比喩なのか。