ワンコ

MOTHER マザーのワンコのレビュー・感想・評価

MOTHER マザー(2020年製作の映画)
4.2
【好きって何? その2】

大森作品としては「タロウのバカ」に続いて、「好きとは何か」を考えさせられる。

「タロウのバカ」のティーチイン上映会で、大森さんに、好きとはなんですかと尋ねたところ、自分にも分からないと…。
観た人がそれぞれ感じて考えてもらえたら嬉しいというようなことも言っていた。

「タロウのバカ」がさしずめ、ネグレクトの親の元で放置されたタロウの、友情の「好き」がテーマであるのに対して、「マザー」はネグレクトではあるものの常に共にあることを望む母親に対するものだ。
例え、歪んだものだとしても、共にいることで「好き」が成立するのか。

「タロウのバカ」は自分で「好き」を育むが、「マザー」の「好き」は狭い世界で外をあまり知らず、半ば強制的に「内向きに膨らんでしまった」もののように思える。

だから、余計に哀れで切ない。

そして、実は、このようなことは社会のあちこちにあるのではないかと思ってしまう。
親子の関係ではなくても、暴力を振るわれながらも、離れることができない男女の関係もそうだ。

この原案となった事件の作品を知っている。
打ち捨てられ、孤独で、世界から隔絶されたような親子が、正常でいられるとは、僕は思わない。

でも、もっと早くに施設に助けを求めれば良かったのだとか、我慢が足りないといった現実に即した意見や解決への提案もよく理解できる。

だが、それは、きちんと判断が可能なように育ったから言えることでもあると、自分の中に葛藤は絶えない。

こうした不幸な出来事が起きないように社会としてどうあるべきかを考えることは重要だ。

だからこそ、たとえ歪んでいるように感じたとしても、こうした愛情が存在していることを理解するのは重要なのだと考える。
例外的だと切り捨ててはダメだと思う。
ニュースで取り上げられるものを見て、憎しみを向けるだけでは解決できないことのようにも思うのだ。

重く辛いが、周りの人々の葛藤も含めて、多くの人に考える機会を与えるような作品だと思う。
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