昨日、ヴィスコンティ監督版を鑑賞したのでU-NEXT繋がりで。
このレビューは根っからのヴィスコンティ作品贔屓の自分がイタリア版と比較しただけのもの。本作を先に鑑賞していれば、もちろん評価は違ったと思う。
原作は未読だが、このハリウッド版は原作にある程度忠実に映像化したものかと見受けられる。そのせいかヴィスコンティ監督版と比較すると犯罪ミステリーの要素がより強く、殺害が行われた後の展開が大きく異なる。
正直、ヴィスコンティ監督版には無かった裁判シーンに入った後からの流れがとても冗長に感じられた。
何よりも、ジェシカ・ラング演じる人妻が店に立ち寄った男に惹かれる心理描写の説得力が弱い。夫とは確かに年齢こそは離れているが、夫が妻に対して邪険に扱う描写も少なく、それなりに愛情を持って接しているのが伝わる。「子作り」についても触れているので性的不能な訳でもなく、何故、若い妻が欲求不満を溜めているのかが本作では説明不足だと感じた。
そもそも彼女が惹かれる男をジャック・ニコルソンが演じているので、本作の製作年から鑑みても、“斧を持つ前の「シャイニング」のホテルの管理人”そのままといった容貌で、少なくとも薄毛恐怖症の日本人の男目線で見れば、ジョン・コリコス演じる夫の外見と比較しても、どこがそこまで魅力的なのかが分からない。
その点、ヴィスコンティ監督版は、まずはキャスティングの時点で“不倫を犯してでも惹かれ合う男女”の設定に説得力があるし、妻がどれほど夫に対して不満を抱いているのかが台詞で明確。
ジャック・ニコルソンは「カッコーの巣の上で」では名演技を披露していたし個人的には好きな俳優。また、ジェシカ・ラングもモデルからキャリアをスタートさせ、ジョン・ギラーミン監督版「キングコング」のヒロイン役で一躍有名となった。でも、あの役どころは“お人形さん”的なキャラので、本作で体当たりの演技で演技派女優として開眼、後に地味ながらも良作の「ブルースカイ」で見事オスカー主演女優賞受賞を果たすなど、彼女の体当たりの演技もいい。
ただ、やっぱり、本作では“否応なしに惹かれ合う男女”を表わすにはこの二人の相性がイマイチ合ってないと感じてしまう。
有名な厨房で初めて二人が肉体関係を結ぶシーンもこの時代にしては結構攻めた生々しい描写(ジャック・ニコルソンの指遣い!)。殺害現場で興奮そのままに抱き合うも、裁判の決着後には肉体を求める男を拒む妻の姿は、一見、複雑な女性心理を描いているようでも個人的にはどうにも浅薄に映った。
これは、脚本が悪いのか?はたまた原作自体がそれほど面白くないのか??
やはり自分は、原作を大胆に改案し(それが原因で原作者の許諾が取れなかったのか?)、“タブーを犯してでも惹かれ合う男女”の姿を一つの純愛の形として見せ、さらには“スペイン人”と主人公の巡業をエッセンスとした脚本も手掛けたヴィスコンティ監督版のほうが断然好み。
但し、ワンシーンのみの登場ながらもアンジェリカ・ヒューストンの存在感は当時から抜群。