カイ

ナイトメア・アリーのカイのネタバレレビュー・内容・結末

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「金か?そんなに欲しけりゃくれてやる。ただし…」ギレルモ・デル・トロによる圧倒的悪夢。「悪夢小路」とは的を射た名で、正にグルグル回る醒めない悪夢のような構成が天才的。親殺しの罪を背負ったスタン・カーライルが、同じく母の命と引き換えに生まれてきたエノクに魅入られ歩む数奇な半生は「嘘」にまつわる邪悪なお伽噺。人生をやり直そうと向かった先で、初めての師、世界、そして最愛の女性と出会った男。しかし彼が求めたのは金。他の何を差し置いても欲しい。自分の俗悪さを嘯きながらも、最後までそれは変わらなかった。偽りで塗り固めた人生は彼の人生を確実に歪め、予想通りの破局を迎える。この「予想通り」というのが恐ろしい。スタンも、彼の周りの人々も、そして我々観客も破滅を知りながらも怖々覗き込んでしまう。始まる前から結果が明らかである故に、その悪夢性が際立つといえば「悪の法則」も彷彿させるが、今作はその先に行く。回帰するかのようにスタンの人生は堕ちに堕ちていく。ラストの酒を煽る彼の目に浮かぶ涙。最高に意地の悪い伏線回収に感嘆する。と同時にこの終わりが彼にとっての安らぎでもあったことがはっきりとわかる。「自分の人生は獣人なのだ」と。一時の輝かしい想い出とともに、悪夢も終わったのだ。そして明日から始まる悪夢のような現実。
「不幸のどん底で幸福だった時代を思い出すことほどの哀しみはない。」
ダンテ
カイ

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