TaiRa

無頼のTaiRaのレビュー・感想・評価

無頼(2020年製作の映画)
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井筒とスコセッシはやっぱ近いね。『ガキ帝国』『ミーン・ストリート』から『無頼』『アイリッシュマン』まで。

本当は実録ヤクザ映画なのに「実録」を謳えない裏社会事情の方が興味深かったりする。基本的には後藤忠政の伝記だが、触れ辛い部分は上手いこと誤魔化しながらやってる。本人も協力してるらしいので明確に悪くは描いてないっぽい。ただ映画で彼を扱うなら、もう少し突き放した方が良かった気もする。やっぱ伊丹十三の事もある訳だし。いつも通りフラットな視線ではあるし、井筒がどういう心持ちかは知らないけど。でも宗教とヤクザの関係を描いたのは伊丹のやろうとした事でもあるし、意志を継いでるとも言えるのか。内容的には高度経済成長が始まった50年代から何もなくなった00年代までを描く。経済成長と無縁の低層民はヤクザやるしか道がない。彼らには学生運動も東京オリンピックも政治思想も宗教もバブルも天皇も関係ない。三菱重工爆破事件の裏で彼らは銀行に糞尿を撒き散らす。野村秋介もただの「面白いおっさん」。左も右も意味を持たない昭和史。ヤクザにとって昭和の終わり=青春の終わり。その象徴としてあるのは天皇崩御ではなく山一抗争の終結というのが面白い。歴史的な事件のニュース映像から後藤忠政の誕生日会映像、果ては『北陸代理戦争』まで再現したりしていて芸が細かい。家宅捜索にブチ切れる竹中四代目とか。元ネタ映像ディグるの楽しい。役者だと松本利夫の朴訥とした佇まいも柳ゆり菜のカッコ良さも良かった。中村達也や松角洋平も素晴らしい。井筒映画と言えば、何処から連れて来たのか分かんないイイ顔の役者たちが大量に出て来るけど、今回もその点は最高。あといつも通り女の魅せ方が上手い。暴力描写のドライさも最高だった。
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