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スイング・ステートのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

スイング・ステート(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

民主党の選挙参謀ゲイリー・ジマーは、ヒラリー・クリントンが大敗し、打ちのめされていたが、ウィスコンシン州の小さな町役場で不法移民のために立ち上がる退役軍人ジャック・ヘイスティングス大佐のバズっているYouTube動画を見て、彼こそが中西部の農村で民主党の票を取り戻す、起死回生の秘策だと確信する。

本作を見れば、知識の無い者でもアメリカの選挙の構図や背景が良く分かるだろう。
小さな田舎町の選挙が民主党と共和党の代理戦争になっていく展開が、アメリカの選挙システムをミニマムに表現している。
利権争いと金儲け主義のアメリカの選挙を、滑稽かつ辛辣に批判したコメディの秀作である。

邦題の「スイング・ステート」とは字の如く「揺れ動く州」と訳せる地域を指す実際にある言葉。
共和党にも民主党にも磐石ではなく、選挙のたびにどちらが勝ってもおかしくない支持率が安定しない州のこと。
ウィスコンシン州もその一つで、小さな農村の市長選を巡り滑稽な戦いが繰り広げられていく。

ゲイリーは、田舎の町民会議で退役軍人の大佐がアメリカ人の心を打つような名演説をしている動画を見て、猛烈に感動。
彼を民主党後援の市長として担ぎ上げれば、民主党の大幅なイメージアップとなり、ウィスコンシン州の大統領選挙において優位に立てると考え、単身その街に乗り込む。
つまり、次の選挙への先行投資、イメージ戦略が発端であるが、選挙に負けてすぐ行動にかかるのがスゴい。
選挙はビジネスなのだと痛感する。

ゲイリーは、大佐に民主党からの町長選出馬を要請し、選挙活動がスタート。

最初は都会と田舎との格差、田舎町あるあるで笑わせてくれる。
融通の効かないレストランに、エレベーターもWi-Fiもないホテル。
支持者ではなく、牛が映る立候補表明。
町に一つしかない看板は現職に奪われ、ネットで寄付金集めをしようとWi-Fi目当てに学校に不法侵入して怒られる。

やがて対立候補の現役町長ブラウンに、共和党がゲイリーの宿敵、トランプの選挙参謀フェイス・ブルースターを送り込む。

その日から、町長選をめぐるゲイリーとフェイスの戦い、いや民主党VS共和党の巨額を投じた「仁義なき代理戦争」となっていく。
小さい町の選挙なのに、大統領選挙並みの力の入れようが笑える。
衛星カメラを使って、住民のデータを集めるスパイ並みの情報戦が展開。
個人的にはテキトーな町民分類の略称が、それっぽくてツボ。
支持を得たいがために、言ってもいない公約のパンフレットを作成したり、大袈裟なTVCMを作成したり、終いには自分はこの土地出身だと嘘をついて同情を集めたり、それを全国ニュースで流すのだから、選挙の身の丈と全く合っていない。

しかも、ゲイリーとフェイスは知性を求められる職業でありながら、いつもスケベで下品な言葉の応酬で喧嘩する。
頭が良いだけに彼らの持つありったけの汚い語彙を使うのだが、「そんな下品な言葉、聞いたことない」という町民の反応には大爆笑だ。

スティーブ・カレルや共和党のキャンペーン担当を演じるローズ・バーンはキレキレの役で、他の俳優陣はそれに染まらずに、妙に落ち着いているなと思っていたら…。
実は、寂れた町を活性化させる資金を得るため、選挙の寄付金を目当てに動画の段階から町民がニセの選挙を仕組んだという意外なオチが待っていた。
このどんでん返しは意外で新鮮。
主人公ゲイリーを含めたエリート層が、馬鹿にしていた田舎者にしてやられる逆転劇となる。

ワシントンのエリート層や富裕層と、アメリカの片田舎で疲弊する労働者階級の格差を、どんな美辞麗句を並べ立てた選挙キャンペーンや強いリーダーシップを持った大統領でも解消してはくれないという深刻な現実を、皮肉とユーモアたっぷりに描いている。

アメリカの大統領選挙の加熱ぶりを風刺した作品。
黒澤明作品「七人の侍」ではないが、「勝ったのは農民だ」。
シリアス劇ならば、田舎者が勝つハッピーエンドはなかっただろう。
お下品な言葉が不快で玉に瑕だが、笑えて、考えさせられて、痛快。
コメディの良いところを押さえた作品である。
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