Sho

ファーザーのShoのネタバレレビュー・内容・結末

ファーザー(2020年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

戯曲「The Father」のFlorian Zeller自身による映画化。これが初の映画監督作品なのかと驚かされる完成度の高さ。

認知症を患う年老いた父親役の主演Anthony Hopkins、介護疲れした娘役の助演Olivia Colmanらの演技を見るだけでも価値のある90分。特筆すべき点は、認知症患者の主人公アンソニーが感じている世界観の描き方。

断片的な時間感覚、記憶の曖昧さ、自他との認知のずれ、何が現実か妄想か分からない状況下で一人不安に苛まれるアンソニーの視点で物語は進む。
認知症患者の普段の感覚がどういうものか?をRoman Polanskiの「反撥」のように精神病を患う主人公の視点で語るのではなく、認知症に戸惑う主人公を客観的視点で淡々と描写していく。カメラポジションを含めた被写体との距離の取り方から、意図的に「あぁこの場面は主人公アンソニーの主観的な世界なのだな」と認知させないようにしている。物語の中のリアルとアンソニーが感じる世界の境界線は曖昧になり、映画を見ている側は何を信じたらいいのか分からない状態が続く。
認知症の世界と知らないまま記憶が歪んだ世界に投げ込まれるというか、ある意味ホラー映画を見てるような居心地の悪さ&状況を理解出来ない怖さを一貫して感じさせる演出方法も新鮮だった。(サイコスリラー的な音楽の使い方がより一層不安にさせる。)

認知症患者の思考や感覚を、映画全体で表現している点がこの映画の一番の見どころ。それを成立させるために計算された脚本、カメラポジション、編集、音楽と、非常にハイクオリティな映画でした。Peter Francisの色使いに拘ったプロダクションデザインが、この映画をただのサイコホラーにさせない仕事をしてて🙆‍♂️
アカデミー賞に絡むのも納得。2021年3月末時点で、今年見た映画のベスト。
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