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ファーザーのEDDIEのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.8
劇中は涙腺崩壊、終幕後は放心状態…アンソニー・ホプキンスとオリビア・コールマンのアカデミー賞コンビが織り成す演技のアンサンブル。
圧巻の演技は勿論、認知症の苦しみを擬似体験できる脚本には舌を巻く。ホプキンス主演男優賞に納得する他ない。

いい意味でしばらく観たくない映画です。
だけど、全人類に観てほしい映画。
それはアカデミー賞主演男優賞を歴代最高齢で受賞したアンソニー・ホプキンスの演技があってこそです。
なんですが、彼の演技だけでなく、認知症という誰にでも起こりうる病気に対して、これだけリアルに、我がごとに感じさせてくれる映画はこれまでになかったんじゃないでしょうか。

もちろん私が知らないだけかもしれないんですが、アカデミー賞ノミネートされる全世界的にも注目されるような作品で、認知症にかかった側の視点で進行する映画って稀有じゃないかなと。

だから本作では認知症を患うホプキンス演じるアンソニーと同じように、観客側も混乱するように仕向けられています。

娘が知らない顔になっている。
知らない男が家の中に平然といる。
初めましての挨拶が初めましてではない。
自分の把握している娘の情報が一致しない。
腕時計がない。盗まれた!?

認知症をテーマにした多くの作品は介護する側や家族側の視点で描かれることが通常です。
そのため、当人がおかしな行動をしても、「あぁ、これは認知症だからこんな行動とってるんだな」って冷静に見れちゃうんですよね。

本作はそこが冷静にいられません。
アンソニーが悲しそうになると、こちらも涙が溢れてきます。
アンソニーが憤慨すると、こちらも居た堪れない気持ちに陥ります。

娘アン役のオリビア・コールマンも認知症の父の介護に思い悩み、親だからこそ家族だからこその放っておけない葛藤をうまく演じていました。
さすがアカデミー賞主演女優賞女優というべきか。

とにかく本作は観客が感情移入しやすいように仕掛けられている気がしました。

何よりも自分の親や祖父母が同じようになる可能性、なんなら自分ですら将来こうなるんではないかと想像させられてしまう恐ろしさがあります。
アカデミー賞脚色賞受賞も当然の結果と思わせられることでしょう。

少し前に公開した『ビバリウム』の好演も記憶に新しいイモージェン・プーツが、アンソニーのヘルパー役として登場します。
彼女も戸惑いを隠せない表情を見せるなど、本作でも好演を見せてくれました。
今後ますます注目度の高まりそうな女優です。

本作『ファーザー』はおそらく自分の中でも年間ベスト級の作品になります。
いやぁ圧巻でした。

※2021年新作映画59本目
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