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ファーザーのヨウのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.4
認知症を患った老人と試される家族の絆。侵蝕される脳機能。見境のつかなくなる現実/虚構、真実/虚偽。自他ともに曝け出されるどうしようもない痛切な思い。ここは本当に私の居場所なのか。大切な娘たちの行方はどうなったのか。目の前の出来事は歴とした”今”を映し出しているのか。。驚愕のメソッドで認知障害とは何たるかを追体験させる超人技にひたすら舌を巻くばかり。美化された過去の思い出の中でしか生きられなくなった老境の慟哭が胸を引き裂き茫然自失に至る。老練の名優・アンソニーホプキンスの神的怪演が途轍もない余韻を後に残す今年度最大の傑作だ。

デヴィッドリンチ風に不可解さを匂わせながら誰もが味わったことのない”認知症”の災厄を突きつけ、ミヒャエルハネケのような凍てついたカメラワークと痛々しい顛末で全体を締め上げ、観客を衝撃と哀愁の渦の中に閉じ込める。リンチとハネケが手を組んだような作風だもの、そりゃ凄まじい一本に仕上がるわけだ。頭が上がらん。

身の回りにも、そして自分自身にも、やがてはやってくる老いと病魔の襲来。決して他人事と考えてはいけない。そういう意味も踏まえて今作を真っ新な心持ちで鑑賞してみて欲しい。受け止めた衝撃をいつまでも忘れずに…
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