蜘蛛マン

ファーザーの蜘蛛マンのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.2
感動作?いや、ホラーでしょ。

自分が何者か分からなくなる。自分の認識している世界が本物か分からなくなる。理性を持つ人間にとって、これほど恐ろしいことが他にあるだろうか。

そんな恐怖体験を認知症の父の倒錯した視点を通じてもたらしてくれる本作は、同時に自身の人生という主観的にしか認識しえないものの虚しさや儚さも骨の髄まで知らしめさせる。

希望はどこにあるのだろうか?
父と娘の愛。それは消えないものとして確かにあるだろう。
でもそれ以上に、生きるという営みは遡及的に振り返るようなものではなく、いわゆる今ここ的なものを全力で生きていくことそれ自体なんだと思ったりした。
公園を散歩して太陽を浴びたり、昼寝したり、アンソニーにもまた、現在進行系の生がある。

なんというか、人間の本質とはなにかを見せつけられるような、素晴らしい作品だった。
蜘蛛マン

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