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ファーザーのKのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
3.3
認知症。家族や周囲の人目線ではなく、当事者目線という構成が珍しい。本人からはどう見えるのか。時系列と関係性の不一致。ぐちゃぐちゃになっていく記憶。脅かされるプライド。自分が自分でなくなる恐怖。困惑と不安の追体験。腕時計。チキン。ルーシーとは誰なのか。じわりじわりとにじり寄り、加速度的に濃くなる不穏な空気。認知症は受け入れるまでが大変で、自覚症状のあるうちが最も辛いとよく耳にする。身近に認知症の家族がいた身としては、お荷物にしか見えない扱いが苦しかった。捨てられるものならいつでも捨てたいといったように。この作品から解決策や救いのようなものはほとんど感じ取れない。確かに現在の医療で認知症を治す方法は見つかっていない。でも症状を緩和し、進行を遅らせることはできる。予防法および治療法、適切な対応についての描写もあればありがたかったと思う。老いるのも悪くない…それは夢物語なのだろうか。当時者の辛さを視覚化するには充分すぎる作品だった。この物語の少し先には笑顔があると信じたい。
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