スローターハウス154

監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影のスローターハウス154のレビュー・感想・評価

4.5
2020/9/10

深淵を覗くとき、深淵もこちらを覗いている。
画面を覗くとき、画面はあなた以上にあなたを覗いている...。

多くのテック企業の幹部たちは、自分たちの子供にはipadなどのデジタルデバイスを使わせないようにするという。スティーブ・ジョブズでさえ子供たちに自分の発明品を与えなかったくらいだ。
なぜだろうか?
それらの麻薬的な中毒性と、その制御しがたい欲望が個人に、そして社会に何をもたらすことになるか、を危惧しているからだ。
監視資本主義ともいわれる現代は、これまでの人類の歴史のなかで全く異質な時代だろう。人類と道具の立場が逆転してしまっているからだ。我々はもはや、道具に道具として扱われている。その人間を利用する道具とは、インターネットである。
わたしたちは日々、気分や思考に基づき行動を選択している。しかしその気分なり思考なりとは、そもそもいったい何によってもたらされるものなのだろうか。気分が変わるキッカケとして、何か画面をスクロールした覚えはないだろうか?
あなたの性格や好みに合わせて情報を提供するSNSやGAFAは、あなたの理解者なのだろうか。いや、搾取者である。
なぜならそれらの目的はあくまでも、儲けだからだ。それらが我々ひとりひとりに行動、考え方、自己啓発をもたらす目的は、結局のところそこに儲けを生むためだけにすぎない。つまり、私たちは商品を選んでいるようでいるが、私たち自身が商品なのだ。
テック企業の金儲け自体はなにも、悪いことではない。では何が問題なのか。
それは、テックが人間の存在価値を脅かしていることだ。
いま世界で巻き起こる混乱、分断に拍車をかけているのは、ほかならぬテックだ。
フェイクニュースはなぜ増幅するか。人間は退屈な真実よりも刺激的な虚偽を好む。そしてすべての情報のプラットフォームとなるAIは真実と虚偽を区別できない。AIには意思がないため、人々のクリック数が真実の尺度となる。そうなると真実がどこに存在するのか誰もわからなくなる。そして人々は共通認識を持てなくなる。
この現状を放置し続ければ、世界の民主主義は劣化し、異様な独裁社会が誕生し、経済も破綻し、気候変動にも対応できなくなる。大げさではなく、おそらく文明は崩壊し、人類存亡の危機に陥るだろう。
SF映画などでは技術そのものが脅威として描かれるが、それは違う。監視資本主義の問題は技術ではなく、社会の闇を引き出す力が強いことなのだ。その闇とは、人間の存在価値の喪失だ。

このドキュメンタリー映画の日本語タイトルは『監視資本主義/デジタル社会がもたらす光と影』だが、”光”の部分はあまり語られていない。というか、この出演者の一人は、ほとんど”光”はなくお先真っ暗で抜け出すのは奇跡、とさえ言っている。
もはや、人間の力では解決することが困難な状態になっている。
だが、手段がないわけではない。解決、は難しいが改善することはできるだろう。
まず、人間自身の弱点を知ること。そしてひとりひとりが監視資本主義、デジタル社会、テックは我々に一体何をもたらしているのかを知ること。我々一人一人の個人情報が商品として扱われている現状はそれほど知られていないはずだろう。それについて問題意識を持ち、議論することをやめないこと。
そういう個人の努力だけでは追いつかないので、テック業界全体をリフォームする必要がある。収益構造やデジタルプライバシーの規制やルールを再調整し、データを集中させないようにしなければならない。国家と国民の利益が無い一方で、巨大企業に利益と特権が集中している状況を変えるため、法律を整えなければならない。つまり、人を蝕む収益モデルをやめ、倫理的なデザインを追求することだ。

最後に、今すぐ自分とSNSとの付き合いを改善したいのなら、通知を切ってアプリを消し、外に出ろということでした。