建野友保

精神0の建野友保のレビュー・感想・評価

精神0(2020年製作の映画)
4.1
想田監督の作品はこれが初見。ドキュメンタリーの作り方は作家によって人それぞれですが、観察に徹した(監督の声は必要最低限出てくるけど)接し方、被写体との関わり方は興味深く、2時間超えのドキュメンタリーにもかかわらず、もっと見たいという余韻を残したエンディングでした。
確かに純愛物語ですが、もはやこの年齢になると、純愛は無色透明になるのだなという印象。夫人のかつての姿と今の姿の違いに愕然とする意味においては老いの厳しい現実を描いた映画ではありますが、できればこのような老いた夫婦になりたいという理想を描いた映画でもありました。
もう一つ、冒頭で丹念に描かれた、患者と精神科医の関係性には深く思うところがあります。これについては、まだ言葉にできません。「精神0」の意味はここで語られることになりますが、それが後半の山本医師自身の生き方にも重なる部分があるのがミソでしょうか。そういえば小津安二郎監督の墓には「無」の一文字が書かれているそう。老境に入ると「無」の心境に入るのかもしれません。
ともあれ、10年前の自分の老親と重なる部分が多々あり、タイムスリップして、当時の何気ない日常が愛おしく感じられ、終始涙混じりの鑑賞となりました。想田監督、ありがとうございました。
建野友保

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