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必殺! 恐竜神父のレクのネタバレレビュー・内容・結末

必殺! 恐竜神父(2018年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ブレンダン・スティアー監督にとっては今作が初めての長編となるが、アイデアは偶然やってきたらしい。メールで“Velociraptor(ヴェロキラプトル)”と打とうとしたところ、誤って“VelociPastor(ヴェロキラプトル+Pastor:牧師)”と打ってしまった。この語感に衝撃を受けた彼は、いっそ映画にしてしまおうと立ち上がったのだ。

低予算をデメリットに変えるかメリットに変えるかは監督の演出力次第。
VFXをテロップとすることで起きる笑いは紛れもなく後者で、これはアイデア勝ちだと言ってもいい。
僕には炎上する車内の中で主人公の両親が叫び声を上げながら死んでいく様が見えた。

「SHE'S FINE」のテロップに関してもそうだ。
この監督は確信犯的に低予算映画を理解した上で撮ってるからこそ、映像ではなく言葉というものを演出のひとつとして組み込んで観客に無理矢理想像させるように仕向けていると思う。



以下、ネタバレ考察。


教会でヨブ記の教訓を唱える神父ダグ。
「苦しみながらも耐え忍ぶのが義人である。」
義人とは、信仰によって堅く正義を守る人のこと。
ヨブは決して神様を責めず悪を行わなかった。
そしてヨブ自身に腫れ物の皮膚病を患わせる。
そう、この物語は聖書における『ヨブ記』を下敷きにしていることがわかります。
ヨブ記のテーマはなぜ義人が苦しむのか。

それを踏まえた上で、『必殺!恐竜神父』を観てみると様々なことに気がつきます。
冒頭でヨブ記の一節を読むシーンで、既に十字架に光が当てられ、バツ印をつけている。
その直後にVFX:Car on fire
特殊効果、炎上する車 です。
予算の関係で挿入できなかったであろう業火に豪快に燃ゆる炎を潔く説明で済ませ、観客の脳裏で再現させようとする。
ダグは神の御心を知るのだと師匠に悟られながらも、開始早々に神に対して懐疑的であることを演出として重ね描いているんです。
そして、神に見放された地へと向かう。

テロップでChinaと表記し、舞台を中国に移す。
これはCar on Fire から観客が脳内で再現させられる流れからもスムーズに誘導される。
監督のアイデアと演出力があって実現できるもの。


中国で現れる悪の軍団テンプル忍者団。
ボスは中国人だが、部下たちは多民族で構成されている。
黒装束で覆われた彼らは忍者というだけで日本を連想させるのも巧い。
つまり、先入観や固定観念への警鐘でもあるんです。
恐竜は人を襲う生き物。
恐竜になって人を食べたダグ。
一方で、それは彼女を救うことにもなった。
物事は表裏一体で、一つの視点から物事を見ると外側が見えなくなる。

神父が神を信じるということ。
この先入観ですらも懐疑的に描くことで、信心が記載されている旧約聖書ヨブ記をも否定する構造になっているということなんですよ。

だからラストバトルで首をもぎ取った後
「暴力を無くすことだけが世界平和を達成する唯一の道である」
とガンジーの言葉を引用する。
神ではなく仏、なんです。

凄すぎませんか?
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