はぎはら

逃げた女のはぎはらのレビュー・感想・評価

逃げた女(2019年製作の映画)
4.2
ずっと気になっていたものの、見過ごしてきたホン・サンス監督の作品を今回初めて劇場で観ました。

主人公のガミ(キム・ミニ)と3人の女性の間で交わされるとりとめのない会話に聴き入っているうちに、4人の女性を取り囲んでいる空気がこちらに流れ込んでくるような不思議な感覚を覚えました。

それは、一言で言えば「みんな閉じ込められているんだな」という感覚です。韓国の女性たちのこととしてではなく、今の時代を生きる私たち自身のこととして伝わってきました。

主人公のガミは、夫が出張する機会に年上の女性や友人の家を順に訪ねていくのですが、自分のことを聞かれると決まって「結婚して5年間夫と一緒にいなかった日は1日もない」と答えます。
最初は幸せな結婚生活を伝える言葉として受け止めたのですが、映画の終盤では、その同じ言葉が結婚生活に閉じ込められた女性の内なる声として聞こえてきます。

ガミが不幸な生活を送っているようには感じられませんが、繰り返される夫からの愛の言葉に何かしらの欠如を感じているように映ります。

ずっと室内での会話シーンが続くのですが、その多くに窓からの景色が映り込んでいます。主人公が訪れる女性たちは口々に、部屋からの眺めが気に入ったからここに住んでいると答えます。一方で防犯カメラの映像は別の現実もリアルに映し出しています。

誰もがより良い生活、より良い人生を手に入れようと悪戦苦闘しているのですが、しっかり手に入れたと思った人生は、自分の外側にしかない、そんな思いがよぎって来ます。

主人公が、まるで窓からの景色を眺めるようにスクリーンを見つめるシーンが心に残りました。

「はちどり」にも出演していたキム・セビョクが主人公に語りかけるシーンもとても良かったです。
はぎはら

はぎはら