Machiko

破壊の日のMachikoのレビュー・感想・評価

破壊の日(2020年製作の映画)
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ぶっちゃけ、意味は分からない。だがこの映画はそれでいいのだと思う。芸術は、「鑑賞するもの」と「体感するもの」の二つに分けられると思うのだが、この映画は明らかに後者。冒頭の、怒りと禍々しさの権化のような地響きにも似た重低音からもそれが分かる。

60分と短いし、あらすじや予告からも起承転結のあるストーリーラインを持つ映画では決してないのだろうと想像できる故、劇場で観るかは正直かなり迷ったのだが、行ってみて正解だった。あの“音”は映画館じゃないと出せない。2020年に公開される新作がなければ、という監督の言葉は本当だった。

スクランブル交差点でのシーンは唸った。コロナ情勢下でゲリラ撮影されているゆえ、道行く人々が全員マスクを着用してるんだよね。ある意味作中の何よりも異様な光景なんだけど、私達は既にその非日常が日常となった世界線へ来てしまった。

それは確実に今しか撮れない画だし、プリミティブな怒りという本作のモチーフが偶然ではありながらより深化している。また、逆に、「リアル」や「普通」という概念が崩壊してしまった今の情勢をカメラに収め、難解なりに意味を与えることで、恐怖心の中暮らす観客の心を救い、祓ってくれたという印象。

フィクションが人の心を救うというのは、きっとこういうことなのだろうと思うし、数多ある媒体の中でも、最も具体的に情報を活写する映画というフォーマットでそれをやってくれたのがとても良かった。難解ながらどこか清々しい後味。日常がとっくに破壊されている今、「破壊の日」という題は意味深。
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