ルイス・ブニュエルの作品中でも完成度の高い、ブルジョワ童貞男が破滅へと向かう不条理劇。主人公の愛する女に対する妄執と堕ちっぷりが凄い。新約聖書で言うところの「失墜した天使」がまざまざと描かれている。
多少エンタメ色(プログラムピクチャー的)が強めなメキシコ時代の作品なので後期ほど前衛的ではないが、これはこれで謎めいたシュルレアリスム映画の逸品になっている。
前半と後半で雰囲気がガラリと変わるので少しとっつきの悪い映画かも知れない。反キリスト教的テーマが読み取れないと素直に楽しめない難解な作品でもある。破滅型のパラノイアを描いた映画という意味でピンチョンの小説『競売ナンバー49の叫び』にも通じるストーリーだった。