とらキチ

国葬のとらキチのレビュー・感想・評価

国葬(2019年製作の映画)
3.5
1953年3月5日亡くなったソ連の独裁者スターリンの国葬を捉えた大量のアーカイブフィルムを再編集したアーカイヴァル映画。そもそもは「偉大なる別れ」というプロパガンダ映画を製作するための素材。
スターリンの遺体を祭壇に安置するところから始まり、時系列に沿って淡々と展開していく。
とてつもなく広く、様々な民族で構成されていたソ連邦。西はヨーロッパから東はシベリアまで、スターリンの死を嘆き悲しむ人々の姿が記録されていたが、余りに"キマリ"過ぎた構図が多く、そこら辺に本来の撮影目的のようなものを感じる。
また弔問で訪れる東側諸国の訪問団。パッと見て認識できたのは周恩来くらいしかいなかったが、きっと大物揃いでアーカイブとしても貴重なものなのだろう。
200名弱のカメラマンが参加したといい、その際にはモノクロだけでなく、カラーフィルムでも撮影されていた。だから全く同じ場面でもその切り返しがモノクロとカラーで混在することがあった。それでも編集がとても丁寧であまり違和感を感じなかった。
そしてスターリンの遺体は、ショパンの「葬送」が流れる中、赤の広場レーニン廟まで運ばれ、次代の指導者のスピーチが行われ、国葬は終わる。
延べにして幾千万の群衆の顔が鮮明に収められていたわけだが、そこには各個人の個性のようなものをほぼ感じなかった。ほとんどの人が無表情。時折泣いている人もいるが、それも指示されているのではないかと疑ってしまう。
最期、スターリンの独裁者、大虐殺者としての本当の"業績"、その後のフルシチョフによるスターリン批判でレーニン廟から遺体が撤去されたことが提示される。
全てが共産主義による茶番、プロパガンダであった。
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