びこえもん

悪は存在せずのびこえもんのレビュー・感想・評価

悪は存在せず(2020年製作の映画)
4.0
2020の金熊受賞作。イラン映画は社会派作品が多い印象ですが、これは死刑執行人をテーマにしていてひときわ重たい一作です。短編集的にいくつかのエピソードを展開し、それぞれ違った死刑制度への向き合い方を描いています。

死刑制度は人権の観点から問題視されがちですが、その多くは吊るされる側の人権を論じています。しかし、吊るされる人がいるなら、吊るさなければいけない人間もまた存在する。国家のために社会のために死刑は必要悪であるという主張はある面で理に適っているし、頭ごなしに否定するものでもないとは思います。しかし、処刑をするのは常に誰か個人であり、イランほど多くはないにしろこの日本でも誰かがこの汚れ仕事を担っているということは決して無視すべからざる事実と言えるでしょう。

映像としての印象としては画質がとてもよかったです。イラン映画といえばよく知られてる作品は一昔前のものが多いこともあって良くも悪くもちょっとモサッとした質感の映像が多いですが、2020年の作品だからか監督がドイツ在住だからか、欧米映画と比べても遜色なさそうなパッキリとして鮮明な映像です。

撮り方や情景には巨匠キアロスタミの影響をかなり感じます。フロントガラスごしにドライバーを映し出す運転シーンや、低木林の道を走ってゆく車……ただ、場面によってパーカッシブなBGMや感情をむき出しにした叫びのシーンなどもあって、素朴ではなく緊迫感のあるつくりになっています。