メザシのユージ

DAU. ナターシャのメザシのユージのレビュー・感想・評価

DAU. ナターシャ(2020年製作の映画)
4.0
2021年・33本目

ソビエト連邦の某所にあり、軍事的な研究が行われている秘密研究所。ここの食堂でウェイトレスをしているナターシャ(ナターリヤ・ベレジナヤ)は、フランス人科学者と肉体関係を結び、惹(ひ)かれ合うようになる。しかし、ナターシャは当局からスパイの容疑をかけられ、KGB職員に疑惑について厳しく追及される。

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期間が15年に及ぶ、ソ連時代の全体主義を再現しようというDAUプロジェクト。欧州史上最大の1万2千平米のセットに1950年代のソ連を再現しそこで数百人のプロジェクト参加者が、現代生活を離れ新しい生活を2年間続けた(その間には仕事、結婚、出産まであった)

そんな狂気の巨大プロジェクトのなかで、この「DAU.ナターシャ」は、40ヵ月もの間、断続的に撮影された。140分の今作はプロジェクトの中ではほんの一部に過ぎない。

物語の主な舞台になるのは、ソ連の秘密研究所内のカフェ。多くの客によって語られる会話はトップシークレットな内容から世間話まで様々。この映画はそこで働くナターシャが主人公。

「DAU.ナターシャ」は、ほぼ室内の中だけのシーンで展開する。暗い映画館で観てると自分も閉塞された空間にいるような気持ちになる。空間だけでなく全体主義のために、個人の自由な思想までも制限を受けるという精神的な閉塞感もある。常にプレッシャーを感じる生活はナターシャ自身の老いも加わり彼女の精神状態を不安定にさせる。

ドグマ95を彷彿とさせるような全編手持ちカメラで、ワンシーンがとにかく長い。喧嘩のシーンからセックスのシーンまで観客はとことん目撃、体験することになる。

イリヤ・フルジャノフスキーとエカテリーナ・エルテリ両監督が語る「ソビエトのトラウマである強制収容所」の実態が姿をみせる終盤から物語の様相が一気に変わる。これは大昔の事ではなくて、最近起こった事なのだ。終盤のナターシャの姿をエカテリーナ・エルテリ監督はこう語る。

「外から見ると、彼女は敗者だと思われるでしょうが、そうではありません。なぜなら、彼女はとてもパワフルで、あらゆる状況を乗り越え、生き残り、そこにあるものを最大限に活用するからです。とても勇敢なことだと思います。誇りを持って生き残ること。自分を失くしたり、諦めたりしないこと。こういった力は過小評価されていると思います。これは世界中の多くの女性をつなぐ力なのですから」エカテリーナ・エルテリ監督談。